『もののけ姫』のキャッチコピーに支配されてるみたい(笑)

 どんな過酷な状況も苦労もさらりと笑顔で語る。その声はどこまでも朗らかで、とてつもない精神力を思わせる。

「だって小さい頃からリハビリの連続で、努力しなければいけないことが多すぎたから。昨日まで元気でも、何かのきっかけで日常生活が一変してしまう、そんなことの繰り返し。けれどどんな状況になっても歌を辞めようと思ったことはなかったし、生き続けることを諦めようとは考えなかった。

 思えば『もののけ姫』のキャッチコピーも“生きろ。”なんですよね。あの言葉に支配されているみたいで、何だかちょっと怖いくらい(笑)」

インタビュー中、笑顔で受け答えしてくれた米良美一
【写真】インタビュー中、笑顔で受けこたえをする米良美一

 歌は自身にとって生きる糧であり、そして数え切れない人々の心を捉え続けてきた。

「この声はもともとお借りしているもの。天与の才だと思っています。だから粗末に扱ってはいけないし、きちんとまっとうしないといけない」

 心身の充足が第一と、朝は6時までに起き、食事に気を配り、規則正しい生活を送る。家では愛犬と戯れ、リラックスを心がける。だがいくら日々を整えようと、避けられないこともある。

 昨今のコロナ禍の影響を受け、米良もコンサートや講演会がいくつも中止に追い込まれた。しかし、もう受け入れるしかない。難病も含め、一緒に生きていく道を模索するしかないと、あくまでも前を見据える。

「生きていれば誰しも一寸先は闇。ネガティブな意味ではなく、人生って思いもかけないことが次から次へと起こるもの。それを身をもって体験してきたし、どんな時もとにかく今出来る努力をしていくしかないということをそこで学んできた。

 このコロナ禍も、僕にとっては気をつけるべきことが一つ余分に増えただけ。どしっと腰を据え、すべきことを粛々としていきたい」

 『もののけ姫』から25年。大ブレイク、そして長いスランプを味わった今、この曲とどう向き合っているのだろう。

「今すごく気持ちがのって歌えるようになりました。ようやく本当の意味が理解でき、歌がフィットするようになってきた。

 レコーディングの時、宮崎監督から主人公のアシタカの気持ちになって歌ってくださいと言われたけれど、当時の僕は少女のサンの気持ちの方が強かった。今頃になって監督に言われたことがわかった気がします」

 アシタカは一族の長となるべく育てられた物語の主人公で、サンと出会い、共生の道を模索する。サンは山犬に育てられた少女で、森を破壊する人間の存在を憎み戦う。

「僕自身ずっと悲しみと怒りの中にしかいなかったけれど、やっとそこから抜けられた。ようやく怒り狂う当時者ではない気持ちになれた。サンを思うアシタカの気持ちを別の角度から見ることができるようになった。

 長い道のりでしたけど、やっとスタートラインに立てた気がして、これから大事に歌い継いでいきたい。ある意味本当に今、『もののけ姫』を歌い始めています」

米良美一コンサート情報:8/25(木)13:45出演 立川ステージガーデン(ゲスト出演)、9/14(水)14:00開演 四日市市文化会館。

PROFILE●米良美一(めら・よしかず)●1971年生まれ。1994年洗足学園音楽大学を首席で卒業。同年10月、バッハ・コレギウム・ジャパン定期公演の教会カンタータでデビュー。1997年映画『もののけ姫』の主題歌を歌い、不動の人気を得る。以降、カウンターテナー歌手として世界的活躍を続ける。

(取材・文/小野寺悦子)