病気になっても受けない手術:心臓弁膜症の手術

 心臓弁膜症の中でも比較的多いのが、心臓内の弁のひとつである大動脈弁が開きづらくなる大動脈弁狭窄症だ。

 心臓の病気となれば、手術を急ぎたくなる。秋津先生によると、「近年、外科医からよくすすめられるのが、TAVI(タビ)と呼ばれる経カテーテル大動脈弁留置術という最新技術を使った手術です。身体への負担が少なく高齢者でもできる一方、実績がまだ乏しい。無理にカテーテルで行わなくても、開胸手術で安全に弁置換を行ったほうがいいと個人的には思います」

 実績が乏しいとはいえ、身体に負担の少ないタビのほうが開胸手術よりも安全そうだが、どうなのだろうか。

「患部を切り開いて医師が自分の目で見て行うのではなく、レントゲンとエコーで見ながらの手術なので、カテーテルの正確な位置合わせがとても難しいのです。あと、これは声を大にしては言えませんが、外科医の先生というのは、最先端の技術をすぐに使いたがる風潮はありますね」(秋津先生)

病気になっても受けない手術:難聴の手術

 会話中に聞き返すことが増えてくると、年を取ったなと実感する。加齢による難聴の始まりで、やがて生活に不便を感じるようになってくると補聴器に頼ることが多い。しかし、補聴器ではどうにもならないような難聴には、唯一の治療法として人工内耳を埋め込む手術がある。

「人工内耳埋め込み術は、難聴の最新の治療法なのですが、実際に埋め込んだ患者さんの話を聞くと、術後時間がたっても聞き取れない人が多いです。もう少し技術が熟成するまで待ちたいですね」(秋津先生)

 手術費用が総額400万円ともいわれており、本当に手術をすべきかは慎重に判断したいところだ。

お話を聞いたのは……

谷口恭先生●太融寺町谷口医院院長。文系大学卒業後、社会人を経て医学部入学。どんな人のどんな症状も診察する総合診療にこだわりながら、ウェブなどで情報を発信している。

寺田武史先生●アクアメディカルクリニック院長。精力的に情報を発信し、新著『なぜ、人は病気になるのか?』(クロスメディア・パブリッシング)はAmazonで発売中。

秋津壽男先生●秋津医院院長。テレビ東京系『主治医が見つかる診療所』では、「何でも解決スーパー町医者」として初回からレギュラー出演。出版物や講演、テレビ出演など多数。

水上治先生●健康増進クリニック院長。がん・難病・アンチエイジングを中心に、皆がより健康になる運動を展開。『世界一受けたい授業』などへのテレビ出演も多数。

(取材・文/高宮宏之)