朝ドラをきっかけにできなかったパターンも

 損をしたと思われる女優もいる。『つばさ』(2009年度上期)で短大生・玉木つばさを演じた多部未華子(33)と『ウェルかめ』(2009年度下期)で雑誌編集者・浜本波美に扮した倉科カナ(34)である。ともに平均世帯視聴率が13.8%、13.5%と低く、それが事あるごとに蒸し返されたからだ。

 とはいえ、ドラマを成功させる要素は「1に脚本、2に役者、3に演出」というのが古くからのセオリー。2人に責任はない。

 実際、『つばさ』はよく分からないところのある脚本だった。ラジオがなぜか人間の姿(イッセー尾形)に変身し、つばさと話した。朝ドラにはヒロインの努力ではどうにもならないことがある。

 明らかに損をしたヒロインもいる『春よ、来い』(1994年10月から1年間)を半年で途中降板した安田成美(55)だ。降板理由は故・橋田壽賀子さんの脚本の仕上がりが遅れ気味で、その内容にも疑問を抱いたから。共演陣の中にも同意見の人はいた。

 ところが、憶測で「安田の歴史観が降板理由」とする報道があった。「安田引退」と一方的に書いたメデイアも。安田はマイナスイメージが付いてしまった。

 芸能界を離れたヒロインもいる。例えば平均視聴率20.5%だった『オードリー』(2000年度下期)で、映画監督・佐々木美月役を演じた岡本綾さん(39)である。

 放送終了後、TBS系の連ドラ版『いま、会いにゆきます』(2005年)などに出演したが、井ノ原快彦(46)の主演映画『天国は待ってくれる』(2007年)でのヒロイン役を最後に引退した。

 岡本さんは当時24歳。引退時には所属事務所を通じ、報道各社にファツクスで「女優として内から引き出すものがなくなり、一度自分自身を見つめ直す時間がほしい」とコメント。損得を含め、朝ドラヒロインのその後はいろいろだ。

取材・文/高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)放送コラムニスト、ジャーナリスト。1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社文化部記者(放送担当)、「サンデー毎日」(毎日新聞出版社)編集次長などを経て2019年に独立。
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