タモリの経歴を振り返ったとき、「早稲田大学中退」という非凡な才能の系譜があることを西条さんは指摘する。

「実は早稲田を中退した芸能人は多く、古くは“エノケン・ロッパの時代”を築き、榎本健一さんと戦後の日本のコメディー界を席巻した古川ロッパさんという人がいます。ほかにも、森繁久彌さん、大橋巨泉さん、永六輔さんなども早稲田中退組なのですが、こういった過去の大物たちが持っていた知性や笑いのセンスは現在のタモリさんに通じるところがあるとよく感じます」

 その後も、小室哲哉、ラサール石井、サンプラザ中野くんなど、早稲田大学を中退した後に才能を開花させた存在は数多くいる。早稲田の学生の間では「中退一流、留年二流、卒業三流」という神話めいた言葉が今なお受け継がれているという。現在活躍している芸人では、くりぃむしちゅーの上田晋也も早稲田中退の経歴を持つが、その意味ではいつかポストタモリと呼ばれる日がくるかもしれない。

 中川家、おぎやはぎいとうせいこう、上田晋也……ポストタモリを受け継ぐ可能性のある人物は何人も挙がるが、“タモリ”という特異な存在は余人をもって代えがたいこともまた同時にわかった。

タモリという人物を要素ごとに切り分けて考えれば、それぞれの資質を引き継ぐような人はいると思います。ただし、どれもあくまでもタモリという人物の一側面にすぎず、全体像としての“タモリ”をまるっと受け継げる人は、おそらくいないのではないでしょうか。改めて唯一無二の奥深い存在だと感じます」

 テレビの衰退が叫ばれる一方、そこで活躍を続けるタモリの魅力は一向に衰えない。お茶の間を楽しませ続けている“森田一義アワー”はまだまだ終わらないだろう。

西条昇(さいじょう・のぼる)●お笑い評論家、江戸川大学マスコミ学科教授、アイドル研究家。江戸川大学ではエンターテインメント論、アイドル論、お笑い論を担当し、ゼミでは業界志望学生の就活指導も行っている

(取材・文/吉信 武)