女優の仕事を始めたきっかけと現在の心境

 もっとも、芸能界入りした当初は女優の仕事を嫌がった。東京生まれで、小学5年生の時に遊びに行った原宿でスカウトされたとき、「お芝居はできません」と念押しした。スカウトした側も「それでもいい」と了承した。実際、その後はティーン向けファッション誌でモデルを務め、人気を集める。

 その仕事ぶりがCM関係者の間で話題になったことから、2004年に「三井のリハウス」のCMに登場する。11代目のリハウスガールになった。

 一方、モデルとしての人気はドラマ関係者の耳にも入り、同時期に日本テレビ系の連続ドラマ『彼女が死んじゃった。』に子役として出演する。望んでなかった女優の仕事のスタートが切られた。夏帆はこう述懐している。

《気がついたらお芝居の仕事をたくさんやらせていただくようになっていて。振り返れば恵まれた状況だったのですが、演じるということがどうしたらいいのか分からず、本当に手探り状態でした》(『Cut』2021年6月号)

 女優をやるうち、徐々に面白くなってきた。スタッフ、共演者との共同の物づくりだと分かったからだという。

 一方で「お芝居って全然わからない」と今もインタビューで言い続けている。新しい作品に臨むたび、役づくりについて考え込むそうだ。しかし、それが良かったのだろう。天才肌なのに悩んだから、さらに演技力が高まった。

 現在は安藤サクラ(36)がタイムリープした主人公に扮する連ドラ『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)に出演中。安藤の同級生を演じている。どこにでもいそうな33歳の女性役をやっぱり自然に演じている。

『silent』からの連投。それどころか昨年は、ほかに2本の連ドラに出た。冬ドラマ『ムチャブリ!わたしが社長になるなんて』(日本テレビ系) と夏ドラマ『拾われた男 Lost Man Found』(NHK)である。 また、のん(29)が主演した同9月公開の映画『さかなのこ』にも出演。ほかにも単発ドラマ、配信ドラマに出演している。これだけ出ていると、観る側から飽きられても不思議ではない。

 そうならないのは夏帆がうまいからだろう。小日向文世(68)、西島秀俊(51)、菅田将暉ら実力派と呼ばれる人はみんなそうだ。連投しても観る側が食傷気味にならないのは、不自然な演技をせず、物語に溶け込んでいるからだ。

 ここに来て、さすがに夏帆の高評価は固まっただろう。今後は故・乙羽信子さんや原田美枝子(64) 、寺島しのぶ(50)らのように主演も助演もやる女優の道を進み続けるのではないか。

 一方、プライベートでは1年前からロックバンド・黒猫チェルシーの渡辺大和(32)と交際中とされている。渡辺は俳優でもあり、夏帆とは2019年の映画『ブルーアワーにぶっ飛ばす』(箱田優子監督)で共演し、知り合った。

 公私とも充実している。目が離せない存在だ。

取材・文/高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)放送コラムニスト、ジャーナリスト。1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社文化部記者(放送担当)、「サンデー毎日」(毎日新聞出版社)編集次長などを経て2019年に独立。