男性の同意を求めるという手続きが、中絶したい女性にとって大きな壁になる場合があるのだ。コロナ禍の2020年にはこんな事件も起きている。

 愛知県西尾市でポリ袋に入れられた男児の遺体が発見され、4日後、元看護学生の女性が逮捕された。報道によると、男児の父親にあたる人物はその女性の小学校の同級生で、彼は中絶同意書に署名することを約束したが、そのあと連絡がつかなくなってしまった。看護学生は複数の医療機関から「男性の同意書がないと中絶できない」と断られたという。

「配偶者の同意」韓国では2020年に撤廃

「2022年6月14日のワシントンポスト紙の記事によると、現在、中絶の際に配偶者の同意が必要な国は、シリアやサウジアラビアなどの10か国だけ。ちなみにG7(主要7か国)では日本のみ。お隣の韓国も以前は同意が必要でしたが、2020年に撤廃されました

 1981年にできた「女子差別撤廃条約」の履行を監視している国連女子差別撤廃委員会は、配偶者の同意が必要との文言が残っている日本の法律を問題視し、同意義務の撤廃を求めているという。

 大きな障壁が残る日本の中絶事情。飲む中絶が承認される見通しにはなったが、決して手放しでは喜べない。

谷口恭先生
太融寺町谷口医院院長。大阪市立大学医学部総合診療センター非常勤講師、日本プライマリ・ケア連合学会指導医。文系大学卒業後、社会人を経て医学部入学。どんな人のどんな症状も診察する総合診療にこだわりながら、ウェブなどで多数情報を発信している。