当時の広末は、芸能界引退まで考えるほど悩んでいた。その話を耳にした時には驚いたが、まだデビュー4年目だったので、本人は芸能界に強い思い入れを抱いていなかったのだろう。早大生生活を選んでも不思議ではない。しかし、吉永に励まされたこともあり、大学と仕事の両立を目指し始める。

 もっとも、結局は5年次の2003年に中退する。当時の広末は「女優の仕事に専念したい」とコメントした。友人たちがノートを貸してくれるなど学業に協力してくれていたものの、教育学部は早大の他学部と比べ、出席率が高くないと進級が難しい。それも影響したはずだ。

女優の道に進む決意

 1999年の主演映画『秘密』と同年の助演映画『鉄道員』が好評を博した後だった。これも中退に踏み切る決意をした理由だろう。

 中退翌年の2004年にはモデルの岡沢高宏氏(48)と結婚し、1男をもうけるが、'08年に離婚。子どもの養育は広末がしている。その子どもは現在、海外留学中だ。

 2010年にはキャンドルアーティストのキャンドル・ジュン氏(49)と再婚。1男1女をもうけた。女優でいる間は生活臭を感じさせないが、家ではすっかり良き母親のようだ。

《かつては3人が同時に反抗期・怪獣期・イヤイヤ期みたいな時期が(笑)。それぞれに向かい合うことは大変ですが、いい効果もあって。反抗期の息子だけだったら煮詰まっていたところを、幼児がいると癒やされたり、お兄ちゃんも気持ちがやさしくなったり、上の子たちが面倒を見てくれるので、毎回赤ちゃんに集中できて育児を楽しめたのは、今思うとすごく良かったなと思います》(『LEE』2023年1・2月合併号)

 エッセイ集『ヒロスエの思考地図 しあわせのかたち』には「私自身が『幸せだなあ』と感じるのは大半、家族と一緒の時」と書いている。

 女優としての魅力は、まず透明感のある美しさと存在感にほかならない。広末が登場すると、画面とスクリーンが締まる。演技の幅も広い。

 WOWOW『トッカイ〜不良債権特別回収部〜』(2021年) で演じた不良債権特別回収部員のような強い女性が似合うが、映画『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』(2022年)のように大きな悲しみを背負った女性役もいい。誘拐された娘を20年も探し続け、やっと見つけ出すと、犯人への復讐鬼になった。

 天真爛漫だった少女が、悩み傷つき立ち止まったことにより、女優としての引き出しを増やしたのだろう。

《若い頃は『老けたね』と言われるのがイヤで”おばさん”になったら仕事をやめようと思っていたんです。でも、おばさんになれば年代に合った役柄もあるし、年相応に年齢を重ねたことによって素敵なんだと思えるようになりました。10代のころのようにただ歯磨きをしているだけでかわいいなんてことはないけど(笑)》(『LEE』2023年1・2月合併号)

 広末は10代のときのほうが、ずっと人気があった。でも今のほうが面白い。

取材・文/高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)放送コラムニスト、ジャーナリスト。1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社文化部記者(放送担当)、「サンデー毎日」(毎日新聞出版社)編集次長などを経て2019年に独立。