『忖度まんじゅう』の生みの親でもある

 一方、稲本さんの名を広く世に知らしめたのが『忖度まんじゅう』。「2017ユーキャン新語・流行語大賞」を受賞した「忖度」だが、このとき、受賞者として選ばれたのが稲本さんだった。

「『忖度』は日本人ならではの、人を思いやるこまやかな心遣いを表現した言葉。それがネガティブなイメージで捉えられているのが、私は嫌でした。そこで、ユーモアをもってこの言葉の良さをアピールできないかと考案したのが『忖度まんじゅう』。ビジネスでの手土産にもピッタリと思いました」

 しかし、発売当初は大苦戦。

「政界への忖度が働いたのか、“売れると思うけど、うちでは置けない”と小売店から取り扱いを拒まれることの連続。ふざけて開発したわけではないので、とても悔しい思いをしました」

 ブレイクのきっかけは新聞記事で紹介されたこと。

「そこからは製造が追いつかない状態となりました。あまりの人気に“忖度が流行語大賞をとったら、呼ばれるかも”と冗談で言っていたら、本当に選考委員会から連絡が来たんです。“ユーモアをもって、忖度を楽しく日本に広めた稲本さんに賞を受け取ってほしい”とのことで、私の思いがちゃんと伝わったことに感動して、泣きそうになりました」

ウケるかハズすか五分五分な商品ほど大ヒット

 世間で話題となるユニークな商品を次々、開発している稲本さん。しかし最初から企画の仕事に従事していたわけではないという。

「何かを表現する仕事で成功したいという漠然とした思いはありました。大学卒業後は報道番組の制作会社に入ったものの、そこでは現場スタッフ以上になれないことを知り、退社。以降は、作家になるためにいろいろな経験を積もう、と世界を旅していたのですが、あるとき、そんなふうに夢ばかり見ているのは結局、何事にも本気で取り組んでいないからだと気がついたんです」

 そこで、玩具卸会社に入社。本気で仕事して、一番になることを目指した。

「しかし、おもちゃの企画を提案しても“リスクが高い”とやらせてもらえませんでした。“では売り先があれば、やってもいいってことですよね?”と、企画だけでなく、制作や販売先開拓まですべて担うことにしたら、徐々に会社の売り上げが増加。成果を上げたことで、企画の部署も立ち上がりました」 

 その過程で得た人脈が稲本さんの財産となった。

「やがて会社員ならではの限界を感じ、好きなようにものづくりがしたくなった私は、10年間勤務した後に退社。それ以降、いろいろな方から企画やプロデュースの相談を受けるようになり、8年前に株式会社ヘソプロダクションを設立するに至りました」

 社名の由来は?

「日本語では物事の中心となる部分を『ヘソ』と表現することがあります。そこで、自分たちのやっていることは日本、さらには世界の中心でありたい、という思いを込めて、この言葉を社名としました」

 以来、ヒット商品を連発しているが、その秘訣は?