ダークヒーローを支える中江監督

 しかし、演じる職業こそ違っても、やはりその役割は正統派ヒーロー。各局の期待に応えるべく、この役割を担い続けてきたことが、「何を演じてもキムタク」と言われがちな状態を招いていました。

 ただ、忘れられがちですが、木村さんには1997年の「ギフト」、1998年の「眠れる森」、2002年の「空から降る一億の星」で、視聴者に「悪い」「怖い」と思わせるダークヒーローを演じた時期がありました。しかもそれらの演技は業界内やドラマフリークからの評判がよく、決して「何を演じてもキムタク」ではなく、「俳優・木村拓哉の真骨頂ではないか」という見方すらされていたのです。

 ちなみにこの3作すべてで演出を務めた「ダークヒーロー・木村拓哉」のキーマンが演出の中江功監督。しかも中江監督は「教場」シリーズでも演出を務めるほか、プロデュースも手がけました。それは今春の「風間公親 教場0」でも同様であり、木村さんの演じるダークヒーローは26年も前の段階から、中江監督とともにつながっているのです。

 そのつながりは関東エリアでの“再放送”を見ても一目瞭然。まず3月17日から4月3日まで「空から降る一億の星」が再放送され、終了直後に「眠れる森」の再放送がスタート。また、4月1日に「教場」、5日と6日に「教場II 前・後編」の再放送が行われ、10日スタートの「風間公親 教場0」へとつながっていきます。

 バタフライナイフを使った演出が物議を醸した「ギフト」こそ再放送されないものの、フジテレビが「風間公親 教場0」のスタートに向けて、「ダークヒーローの木村拓哉」をたたみかけていることがわかるのではないでしょうか。

自然体の演技と人気者ゆえの孤独

 ではなぜ木村さんはダークヒーローがフィットするのか。

 たとえば、現在再放送されている「空から降る一億の星」で演じた片瀬涼は、金目的で女性に近づくほか、邪魔な人物は宮下由紀(柴咲コウ)や西原美羽(井川遥)らを使って始末させるという最低の人物として描かれる一方で、それでも目が離せない不思議な魅力を醸し出していました。おぼろげに残る過去の過酷な記憶、「好き」という感情がわからない戸惑い、時折顔を見せる人間らしい感情などを表現することで、「ただのダークな人物」として嫌悪されるのではなく、「ダークだけどヒーローかもしれない」と感じさせていたのです。

 それは「眠れる森」で演じた伊藤直季も同様で、ヒロインの大庭実那子(中山美穂)に高圧的な態度で接するほか、ストーカーのように現れて怖がらせ、婚約者との仲を引き裂こうとするなど、視聴者に「悪い」「怖い」という印象を与えていました。しかし、「悪い」「怖い」という印象は演技がナチュラルだからこそであり、わずかに見せる優しさを引き立て、やはり「ダークだけどヒーローかもしれない」と感じさせたのです。