「特別な偶然を演出」

 村上春樹の熱狂的ファンは、『ハルキスト』と呼ばれる。

 偶然の出会いに気づくと、綾瀬と石川はうれしそうに会釈、そして綾瀬は近づき、石川と表紙を見せ合い笑う。それはまるでハルキストのようで……。

あまりに熱狂的なことなどから、村上さんアンチではない、“ハルキストアンチ”も少なくありません。店内の人が同じ作者の作品を読んでいるという状況以上に、それがすべて村上春樹作品だったことが、否定的な意見が上がった理由では。これがW村上の村上龍さんであればまた違った感想だったかもしれませんね(苦笑)」(文芸編集者)

 ユニクロの代表取締役会長の柳井正氏と村上春樹氏は、共に早稲田大学出身。村上氏の文学を中心として研究を図る『早稲田大学国際文学館』の建設費用12億円を柳井氏が寄付するなど関係も深い。

「会長がCMに口出ししたということはないでしょう。作品はすべて新潮社発行のものになるので、使用許可が得られやすい面もあるでしょうね」(同・文芸編集者)

 本CMの描写についてユニクロに問い合わせると、以下の回答があった。

「このCMは、ユニクロのメリノウールを着て上質な時間を過ごす人々を描いています。とある雰囲気のあるコーヒー店で、思い思いの特別な時間を過ごす人々。上質な空間に居合わせた人が、同じ作家の本を手にしているという特別な偶然を演出いたしました。その中で、世界的にも評価のある村上春樹さんの本を使用させていただきました

 否定的な意見は見られたが、次のように評価するものも。

《ユニクロと村上春樹はコラボしたこともあるし何も不自然じゃないと思うけど…なら何を読んでいれば気持ち悪くないんですか笑》

《メリノウール着て、本を持ってカフェに入るシーンはとても素敵》

 すべての人が高評価する、完璧なCMなどといったものは存在しない、完璧な絶望が存在しないように。やれやれ。