皇室と能楽のつながりが希薄になりつつある

'19年10月、天皇即位に際し行われた晩さん会で海外の要人らの前で舞を披露する萬斎氏
'19年10月、天皇即位に際し行われた晩さん会で海外の要人らの前で舞を披露する萬斎氏
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 一方、明星大学教授で演劇評論家の村上湛氏は、皇室と能楽のつながりが希薄になりつつあるという。

「江戸時代は京都の御所に能舞台が建てられたり、能役者が雇用されたりと、宮中では能が愛されていました。また、大正天皇の即位に合わせて開かれた祝宴会で、宮殿前に豪華な能楽堂が建設されたことも。それまでの皇室にとって能は、日常に溶け込んだ生活娯楽でした。ところが昭和に入り、香淳皇后は個人的に能を愛しましたが、天皇主催の能の会は開催されず、現在に至ります」(村上氏)

 そんな中、能楽と皇室をつなぐ“担い手”として期待されているのが萬斎氏だ。

「萬斎さんの父、万作さんと伯父の萬さんは人間国宝であり、文化勲章も受賞しています。そんな家系はなかなかありませんから、皇室も“自信を持って依頼できる”と信頼を置いているのだと思います」(葛西氏、以下同)

 さらに萬斎氏にも、皇室や国の関連行事を引き受ける理由があるそうで……。

「彼はどんな仕事よりも能楽の仕事を優先します。映画やドラマによく出演しているイメージがありますが、能楽の仕事の合間を縫って出演しているんです。晩さん会や先日行われた文化祭しかり、多忙な身で能楽以外の仕事を引き受けるのは“自身の露出を増やすことで能楽を広めたい”との思いが強いからでしょう」

 雅子さまの温かい拍手は、地道な普及活動にいそしむ萬斎氏の心に沁みたことだろう。

村上湛 明星大学人文学部教授。新聞・テレビなどのメディアで、古典芸能を中心とした演劇評論に携わる
葛西聖司 NHKアナウンサーを経て、現在は能狂言など伝統芸能に関する講演や執筆活動を行っている