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ー 普通のアスリートは記録が自分自身の評価基準だが

 エンゼルスから自身初のフリーエージェント(FA)になった大谷翔平。5日間はエンゼルスが独占交渉権を持つが、日本時間11月7日からは全球団との交渉が可能に。

 メジャーリーグで日本人初のホームラン王に輝き、2度目のMVP受賞も有力視される大谷の“争奪戦”が始まるのは間違いない。これほどまで活躍ができるのは、強靭な肉体はもとより、並大抵ではないメンタルの強さがある。

普通のアスリートは記録が自分自身の評価基準だが

「'18年に右肘を故障した際、医師から手術をすすめられた当日の試合で2本のホームラン。いつも近くで大谷選手を見てきた水原一平通訳が“鬼のメンタル”と驚いたのも無理はありません(笑)」(スポーツ紙記者、以下同)

 今年も負傷した直後に打者として活躍した。

「8月24日のダブルヘッダー1試合目で投手として出場も、右肘を痛めて交代。しかし、検査を受けて戻ってくると2試合目もスタメン出場して、二塁打を放つなど、ケガの影響を感じさせませんでした。普通は落ち込んでもおかしくない状況ですけどね」

 日本ハム時代も精神面の強さが光っていたよう。例えば、

投手として試合で打たれても、翌日の打撃練習では笑顔でホームランを何本も打っていました

 なぜメンタルが強いのか。『「できない」を「できる」に変える 大谷翔平の思考法』(アスコム)などの著書がある、スポーツ心理学者の児玉光雄さんはこう分析する。

「多くの選手は“ホームランを何本打ちたい”と記録を意識しますが、大谷選手はプロセスを大事にしています。例えば、“いい打撃とはどういうことなのか”と考えて、試行錯誤しながら日々成長し、その手応えを感じることを快感にしていると思われます」

 ほかのアスリートと比べても大谷は特別だという。

「普通のアスリートは記録が自分自身の評価基準なので、結果がよければ喜び、悪ければ落ち込みます。大谷選手は記録のことは頭にないので、結果にメンタルを支配されません。うまくいかなくても、気持ちを切り替えるという考えすらなく、常に平常心で試合に臨むことができるのでしょう」(児玉さん、以下同)

 逆境や失敗も楽しんでいるという。

「よくない結果が出ても、飛躍のヒントを得ることができたから喜ぶべきこと、という考え方です。例えば三振してしまったら、“今度はこうやってみよう”と考えて、実際に試してみることができるアスリートです」

“ユニコーン”とも呼ばれる存在になったのは、野球だけに専念したからのよう。

「普通のアスリートは遊んでリフレッシュする人も多いため、そこまで突き詰められません。一方の大谷選手は、遊ぶ時間があるなら野球のことを考えるタイプのため、結果的にほかの選手がまねできないパフォーマンスを発揮できるのだと思います。

 今回の右肘のケガも、多くの選択肢がある中でどれを選んだら、いいパフォーマンスができるかを考えて手術を決断したと思います。最後は自分で決断し、どんな結果でも後悔はないと考えるため、悲愴感もないのだと思います

 泰然自若な“鬼メンタル”があれば、今回のケガも乗り越えてくれるだろう。

児玉光雄●臨床スポーツ心理学者。追手門学院大学スポーツ研究センター特別顧問。著書に大谷翔平 勇気をくれるメッセージ80(三笠書房)などがある