つまり、野生動物の世界は基本的に自分の生活圏で「自己中心的」に静かに孤立して生活しているという表現が実態に近いと考えている。互いに適度な「距離」をとっている、と言ってもいい。親しき中にも礼儀あり、という言葉があるが、野生動物の世界にも、同じような適正な距離感というのがあると考えられる。

 人間と野生動物の関係も同じで、適正な距離感がなければ、関係が破綻してしまう。人里近くで生まれ育ったヒグマのことを「新世代熊」と呼ぶことがあり、新世代熊は人間の生活音に慣れ、人間を恐れないという。これは、ヒグマと人間の距離感が崩れ始めているということだ。

人間に対する「恐怖心」を持たせる必要性

 こうした中、適正な距離感を保つために有効だと考えられるのが、人間に対する恐怖心、人間のなわばりに近づいてはいけないという認識を野生動物に与えることではないだろうか。

 その観点から有効なのが狩猟や許可捕獲である。狩猟というのは、狩猟免許に基づき狩猟期間中に狩猟鳥獣をとることであり、いわゆる狩りである。一方、許可捕獲というのは、生態系などへの被害防止や個体数調整を目的として都道府県の許可を得て行うもので、農作物被害等を防ぐためのものである。

 知り合いのハンターによれば、エゾシカはハンターを恐れて狩猟許可区域を避け、禁猟区にかたまっているという。つまり、狩猟行為がエゾシカに一定の圧力を与えていることになる。ヒグマについても同様のことが言えないか。

 1989年に春グマ駆除活動が中止されたことがヒグマに対する捕獲圧の緩和となって、ヒグマが人を警戒しなくなった要因と考えられているのだ。それまでは春になればハンターがクマを駆除していたため、ヒグマが人間の「なわばり」に近づくことを恐れていた。