石堂順子さん
 中東の過激派組織「イスラム国」に殺害されたとみられるジャーナリスト・後藤健二さん(47)の実母・石堂順子さん(78)が、本誌の単独取材に悲痛な胸の内を明かした。

「どうぞお線香をあげてやってください。ケンジも喜びます。ケンジ、報道のお仲間が来てくれたわよ。よかったね」

 都内の石堂順子さん宅居間にしつらえられた祭壇で、後藤健二さんの遺影はほほ笑んでいた。母・順子さんは、本誌記者を自宅に招き入れると、遺影に話しかけるようにそう言った。2月1日に「イスラム国」による殺害画像が公開されてから10日がたっていた。

 突然、順子さんは両手で記者の手を握りしめた。

「あなた、お母さんを悲しませないって、危ないところには行かないって、約束して。本当よ。じゃあ約束ね」

 と指切りげんまんも。シワが刻まれた細い手は驚くほど力強かった。ジャーナリストの息子と同じ業界で働く人たち。言わずにはいられないようだった。

「みなさまにご心配をおかけしましたことを心よりお詫びします。大勢の方からお手紙をいただき、励まされました。100通以上あります。やさしいお心遣いに感謝します。ケンジは旅立ってしまいました。今も悲しみでいっぱいです。ですが、教えられたこともあります。わがことでなくとも思いをかけてくださる日本人のやさしさです。私よりも困っている人がいたら助けてあげてほしい」

 朝6時ごろ起きて夜11時過ぎに寝る。脂っこい食べ物は胃が受け付けないので、「あっさり系」の食事。朝、昼、夜、寝る前と1日4度、遺影に手を合わせる。

「ケンジは親分肌で、いじめられている子の前に立って“何をするんだ!”と守ってあげる子でした。毎日、外で遊んでいたけれど、不思議と服は汚さない。泥だらけで帰ってきたことはないですね。女の子にはモテたほうだと思います。バレンタインデーにいっぱいチョコをもらって照れていました。“そんなにチョコもらったの?”と聞くと、“ママ、自分が食べたいからそんなこと言うんだろ? 1個あげるよ”とか言って。傑作でしょう?」

 順子さんはもともと天真爛漫な性格なのだろう。楽しかった思い出やうれしいことについてはすんなり言葉が出る。しかし、言葉に詰まったり、会話が噛み合わないことも多い。いまだ精神状態は不安定で、デリケートな話題は無意識に避けてしまうようだった。

「ケンジの奥さんや孫には会っていません。お互いにあまりにも衝撃が大きかったのではないでしょうか。そのように思っています。連絡がとれるほど心の整理はついていないと思います」

 母親が息子のためにつけてもらった戒名は「健生院法照和德信士」。遺体が帰ってこないため、葬儀・告別式はできないという。孫に会いたいのではないか。

「そこを考えるまでには至っていないんです。まずは、みなさんからのお手紙を読むこと。何度も読み返しています」