養老先生は、悩み相談も似たところがあるといい、解決してあげるというスタンスではなく、問題を探すというスタンスが大事ではないかと続ける。
「わかってもらえると思っているほうがおかしい」
「相談に答えるというよりも、もっと一般的な問題として、『こういう見方もあるんじゃないですか?』といったことを話しているだけなんです。僕の言っていることが参考になればいいなくらいの気持ち。ですから相当、あさっての方向から答えていることもあるんじゃないかな(笑)」
学者という立場上、若いころから相談されることが少なくなかったというが、「親身になって聞くから相談されやすかった」と微苦笑。
「裏を返せば、親身になってくれる人が少ないから、悩みが増えていくのかもしれないですね。誰にも言えないってそういうことなのかもしれない」
ただ、こうも付言する。
「悩みに対して答えがあるとは限りません。加えて、説明しても相手がわかるとは限らないという難しさもあります。もし皆さんが誰かの相談を受けるときは、自分が伝えたことが100%伝わっている、あるいは100%理解してほしいと思わないほうがいい。人はそれぞれ違うのだから、わかり合えないのが当たり前。そういう視点を持ったほうが人生は楽ですから」
'03年に発売された『バカの壁』は、新語・流行語大賞となるほどベストセラーとなった。同書で養老先生が伝えていることは、まさにこの点だ。
一つの考えを「絶対に正しい」と自分の中で定めてしまうと、それ以外の考え方を理解できなくなる、認めることができなくなる。その結果、自分が知りたくないことについては、自主的に情報を遮断してしまう。自らつくり出すバリアを、「バカの壁」であると養老先生は喝破した。
「自分のことをわかってもらえない、と文句を言う人がいますが、わかってもらえないことは当たり前だと思わなきゃいけない。わかってもらえると思っているほうがおかしいんです」
「壁」の高さが少し下がるように感じないだろうか? 「人はそれぞれ違うのだから、わかり合えないのが当たり前」と構えるほうが気が楽だし、悩みも軽くなりそうだ。
「世の中はそういうふうに悪くなっていくだろうと思ったから、僕は『バカの壁』を書いたんですね。当時から学生が僕のところに来て、『説明してください』と言う。
それ自体は、先生と生徒ですから普通のことなのですが、一方で、男子学生に『例えば陣痛の痛さを説明したとする。君はそれで陣痛がわかるか?』と聞くと答えられない。説明してもわからないことなんてたくさんあるわけです。簡単になんでもわかると思っちゃいけない」