一人だからこそ可能な自由

 そして恵のソロ活には、「一人だからこそ可能な自由を楽しむ」という、前向きな側面もある。例えば動物園では、無理に全部の動物を見ようとせず、好きなワシばかりずっと見物する。筆者も博物館などでは、ある展示を見て、思い出して前の部屋に戻ったりするので、同行者からは「先に行ってるから、出口で集合ね!(怒)」と言われやすい。だから相手のペースに合わせて見学して、後日また一人で見に行ったりするのだ。

 シーズン5で恵は「レトロなものを見て何とも言えない気持ちになるのは、自分もいつか同じように朽ちていくからか」と独白していたが、一人だとそんな、普段は考えない哲学的な思索にふけれるのもいい。

 恵を見ていて学ぶのはソロ活をする時の“態度”で、誰に対しても泰然としているのだ。筆者など一人でいるとつい、「この籠、使ってもいいですか?」と自分からヘコヘコ店員に話しかけてしまったりするが、そんなのは見りゃわかるから必要なし。話しかけられても「はい」「そうですか」と淡々と答え、でも拒絶している風ではない自然さは、ぜひ参考にしたいものだ。

 そして恵は、よく話しかけられる。夜景クルーズや銭湯、高級ホテルなどで、ソロ活の先輩と思われる年上の女性や男性に、これまでの人生が垣間見えるような話を聞かされ、傾聴する。でもそれはその場限りのこと。シーズン5最終回では、シーズン1の工場夜景クルーズで出会った女性ふたりとまさかの再会を果たすが、連絡先を交換するわけでもなく「また会えますよね。それまでお元気で」と別れていく。それくらいの関係が大人にはちょうどいい。

 テーマパークや喫茶店など、その場を愛しすぎているベテランに、うんちくを語られるケースも多い(恵は心の中で彼らを“美術館の妖精”などと呼んでいて、小手伸也や要潤などが演じている)。時々ディープ過ぎるきらいもあるが、彼らの話は総じて面白い。

 こんなふうに話しかけられる経験は、ソロ活男子は少ないと思う。筆者も20代の頃こそ、たまに親切なおじさん、おばさんに話しかけられたこともあったが、立派なおじさんになった今は、まあ話しかけられない。稀に話しかけられると、変に政治的主張のあるお爺さんだったりして、慌てて逃げることになる。この辺が男と女の違いかなと思う。

 …いや、きっと男女差の問題だけでなく、筆者自身が話しかけやすい空気を発していないのだろう。恵も恐らく、人懐こい風貌ではないのだが、どこか話かけても良さそうな隙間があるに違いない。私はシーズン5まで観てきたが、まだその極意がつかめないので、ぜひシーズン6も放送していただき、マスターしたいと思っている。シーズン5の最終回では、「どこに行っても一人で行動する女性が当たり前にいるようになった気がします」「○○女子みたいなの、最近言わなくなってません?」というセリフがあり、恵も正社員復帰を決めるなど、シリーズ完結とも、継続とも取れる終わり方だったが、こんなソロ活おじさんもいるので、ぜひ継続で願いたい。

 これからの時代、人はますます家族を作らなくなり、孤立化が進んでいきそうだ。そんな中、個人がそれぞれきちんと独立していながら、ちょっとした会話は交わせるくらいの“ちょうどいい距離感”(番組では「リスペクト」という言葉を使っていた)。そんなものを『ソロ活女子のススメ』は教えてくれていた気がするのだ。

古沢保。フリーライター、コラムニスト。'71年東京生まれ。『3年B組金八先生卒業アルバム』『オフィシャルガイドブック相棒』『ヤンキー母校に帰るノベライズ』『IQサプリシリーズ』など、テレビ関連書籍を多数手がけ、雑誌などにテレビコラムを執筆。テレビ番組制作にも携わる。好きな番組は地味にヒットする堅実派。街歩き関連の執筆も多く、著書に『風景印ミュージアム』など。歴史散歩の会も主宰。