“小泉劇場”の再来を冷たい目で見る農家
「米を買ったことがない」と発言して更迭された江藤前農水相に代わり、小泉氏が新たに農水相となったのが5月末。「スピード感をもって対応する」の言葉どおり、次々と備蓄米を放出。6月初旬からは令和3年産の古古古米も店頭に並び始めた。備蓄米の合計放出量は7月までに約60万トンに及ぶ見込みだ。
テレビでは、スーパーの棚に備蓄米がズラリと並ぶ様子や、「安く買えた」と喜ぶ消費者の姿とあわせ、連日のように小泉農水相の動向を報道。まるでヒーローさながらだ。令和版の“小泉劇場”の影響か、6月半ばに産経新聞社とFNNが合同で実施した世論調査では、「次の首相にふさわしい人物」として小泉氏がトップに。この結果に、多くの農家が鼻白んでいるという。
「小泉氏とは反対に、江藤前農水大臣は備蓄米の放出に慎重でした。米価の不当な下落を防ぐためでもあるので農家としては理解できますが、1円でも米を安く買いたい消費者からは反発がありました。結果論ではありますが、新米が出ても米が足りないことがわかった昨年12月ごろに備蓄米の競争入札を決断して、年明けから放出していれば、ここまでの混乱は防げたかもしれません」
政府による備蓄米の売り渡しは、これまで競争入札で行われてきた。しかし、今回の騒動ではタイミングを見誤ったことから米の高騰が止まらず、もはや競争入札では小売店での価格が下げられない事態に。
そこで小泉氏が採り入れたのが随意契約だ。政府が備蓄米の売り渡し先に加えて価格や量も任意に決められるため、5キロ2000円という激安価格での販売を可能にした。柏木さんは、このような小泉氏の近視眼的な政策が、今後の日本の食の根幹を揺るがしかねないと考えている。
「目先の安さばかりが報じられていますが、古古古米まで放出しているこの状況では飼料用米が足りなくなり、次は卵や畜産物が高騰する可能性も十分あり得ます」
そもそも、これまで米価格が安すぎたことが原因で離農が進んでいる現状もある。この先ますます米が値崩れするようなら、農家が稲作を続けることは困難だ。
「米は食料安全保障の要。日本の稲作の基盤が崩壊すれば、主食である米を輸入に頼らざるを得ません。それは国の弱体化をも意味する、極めて重大な事態です」