米の輸入自由化が騒動の先に見え隠れ

 その懸念は現実のものになろうとしている。小泉農水相は6月20日の会見で、ミニマム・アクセス米(MA米)の一般輸入分の前倒しについて言及した。

 MA米とは、'93年のWTO(世界貿易機関)ウルグアイ・ラウンド交渉で定められた「日本が海外から最低限輸入しなければならない米」のこと。現在、アメリカやタイ、中国などから年間77万トン輸入されている。

 多くは米菓やみそ、焼酎などの加工品や飼料用米に利用されるが、うち10万トンは主食用で、外食・中食産業などに販売される。小泉氏は米不足の新たな対策として、MA米主食枠の輸入前倒しを決めた。

「農家は、国がこの騒動に乗じて米の輸入自由化を強行するのではないかと危惧しています。参院選終了後がひとつのタイミングになるのではないか」

 備蓄米は常時100万トン程度の保管を基準としているが、小泉農水相の会見によれば、度重なる放出によって現在の在庫は約15万トンにまで減少。MA米の輸入前倒しは、災害など万が一の事態に備えるためだという。全体の輸入量や、主食枠の増加については言葉を濁したが、今後、方針転換も十分考えられる。

「米は日本の主食。自給自足が基本で、輸入に頼ることは絶対にあってはなりません。今回の米騒動について、農水省や卸、JAなどに責任の所在を問う声が相次いでいますが、私は国民一人ひとりが、米のことを真剣に考えてこなかったことが最大の原因ではないかと思っています。このままでは小麦と同様、米までも外国産が当たり前になってしまうかもしれません」

 令和4年度の1人あたりの米の年間消費量は約50・7キロ。50年前と比べ半分以下にまで減少している。米とパンの支出額も'11年に逆転。今ではパンのほうが多い。

 物価高騰にあえぐ国民と、米生産者との認識のギャップも大きな課題だ。5月に全国の新聞社と日本農業新聞が合同で行ったアンケートでは、消費者が考える米の適正価格が5キロあたり2000円台前半だったのに対し、生産者の多くは3000円台後半と答えた。現実問題として、消費者が求める価格では持続的な米作りはもはや不可能だ。

「低所得世帯には米の支援など政府が具体的な策を打ち出す必要がある一方で、国民も米問題を自分事として捉えなければならない段階に来ています。私たちにできることは、外国産小麦のパンではなく国産米を食べること。そして農家としては、米の『最適価格』について改めて考えてもらいたいです」

 小さな心がけも、集まれば大きな力になる。今こそ国民が全力で、「日本の米」を守るべきときだ。

<取材・文/植木淳子>

柏木智帆 米・食味鑑定士、ごはんソムリエ、お米ライター。新聞記者と米農家の経験から、お米の魅力を追求。著書に『知れば知るほどおもしろい お米のはなし』(三笠書房 知的生きかた文庫)