改名のきっかけは“父親の一言”
“最期だけは本名で”と願った桐島。名前は自分自身であり、アイデンティティーでもある。毎熊克哉(まいぐまかつや)の読み方を間違えられることもあるかと尋ねると、
「“まいくま”と呼んでくれたらいいほうで、“まえじま”とか“まえくま”とか(笑)。電話予約で名乗っても、ほぼ100%伝わらないですね。もう慣れちゃってるので、正しく覚えてほしいとも特に思わないです(笑)。ただ映画のフライヤーなど印刷物のフリガナが間違っていたら、“そこはちょっと直してもらえたら”と思うくらいですね」
かつては本名の毎熊克也で俳優活動をしていた。そのころを、まだアルバイトをしないと食べていけなかったと振り返る。
「也を哉に変えたのは、気分転換で(笑)。自分から変えようと思ったわけじゃなかったんですが、父親が“哉のほうが字画がいい”と言っていることを母親から聞いて。正直、一時期は“俳優なんていつまでやっているんだ!”という雰囲気だった両親が、一応は応援してくれているんだなと思って」
改名直後、(映画専門学校の)同級生が初メガホンを取り、毎熊が主演した『ケンとカズ』(2015年)が東京国際映画祭で作品賞に輝き、話題に。自主映画ながらロングランヒットとなり、毎熊は数々の新人賞を獲得。朝ドラ『まんぷく』(2018年)でお茶の間にもその名が知られ、今や映画やドラマに引っ張りだこ。脇でも輝く主演俳優に。
「改名したからいい風が吹いたとか、僕は信じるタイプじゃないんですけど。でも言われてみたら、タイミングは合致しているので、そういうことにしてもいいのかもしれません(笑)」
桐島聡のように……とは言わないまでも、逃げたい、逃れたいと思っていることは?
「矛盾するようなことを言うんですが、新しい役と出会ったときやセリフを覚えないといけないときには、いつも逃れたいなとは思います(笑)。作品をやれることはもちろん、すごくうれしいんですが、いざ“これからこの役に向き合うのか”と考えると……。もちろん、本当に逃れちゃったら、それはもう引退するときですよね(笑)」
取材・文/池谷百合子