巧妙に日常に流通している違法薬物

 小比類巻さんによると、昨今の薬物の売買交渉はSNSが主流だとか。

「薬物を表す数々の隠語が生まれては消えています。SNSが主流になった今は、取引方法も多種多様になりましたね」

 小比類巻さんは、渋谷署、四谷署に籍を置いていた時代、仲間の刑事たちから“守護神”と呼ばれるほど、薬物の取り締まりに対して辣腕を振るっていた。

「毎日誰かしらを逮捕していたくらいです。大麻やコカイン、ありとあらゆる薬物に関係する犯罪が起きていた。路上で売人から薬物を買う事案を“小シャ売”というのですが、例えば2010年くらいの渋谷では、当時いたイラン人が大量に売りさばき、外貨を稼いでいた。昔も今も日本は大きな市場であり、薬物は身近な存在であり続けている」

 自分には関係のないことだと思うなかれ。ストレスや不安にさいなまれたとき、想像している以上に薬物は身近にあるということを忘れてはいけない。

「つい先日も、某所で家族と食事をしていたのですが、私たちの向かい側のテーブルで食事をしていた仕事仲間とおぼしき3人組の男性たち。そのうちの一人に、思わず目が留まりました。同僚の他の2人はまったく気がついていないようでしたが、私は長年の経験から、その男性が薬物を使用しているとわかりました。彼だけが、薬物を使用している人間特有の顔つきをしていたのです。

 想像以上に、薬物は日常に潜んでいます。知見を生かして、皆さんに伝えていけたらと思っています」

小比類巻文隆さん。治安戦略アナリスト。1993年、警視庁入庁。2023年、退官。組織犯罪・薬物銃器対策、国際犯罪、秘匿捜査などを専門とし、警視庁にて30年にわたり数々の重大事件に対応。退官後は知見を生かし、地域防犯・災害対応・外国人対策・企業の危機管理支援など、治安戦略のプロフェッショナルとして幅広く活動中。

<取材・文/我妻弘崇>