もうちょっと詳しく見たかった

 もう一つツッコミたいのは、後半の展開が早すぎたことだ。

 のぶが戦前、教師として愛国主義だった影響もあり、戦後「高知新報」の記者になった第14週でようやくのぶの人生が動き出した感があった。今回はたまたま、昼に『とと姉ちゃん』の再放送をしていたので比較してしまうが、同作の常子(高畑充希)が第8週でタイピストとして奮闘し始めたのと比べると、だいぶ遅い。

 視聴者としては、のぶの新聞記者や議員秘書、嵩の百貨店時代の奮闘も、もうちょっと詳しく見てみたかった気がする。のぶにとって正義が逆転してしまった戦争体験が大きかったため、戦前を丁寧に描きたかったのはわかるが、もう少し戦後の配分が多くても良かったのではないだろうか。高知新報の東海林(津田健次郎)や三星百貨店の出川(小田井涼平)ら、面白くなりそうなキャラがあっただけに、出番が短かったのも残念だ(東海林は晩年、大切な役割を果たしたが)。

 そうしたこともあってか、物語が全般的に、起きた出来事とヒットの法則をなぞるので時間一杯になってしまった気がするのだ。

 もっとも、誰もが知る『アンパンマン』の作者とその妻という、題材を見出した時点で、面白いドラマになることはほぼ確約されていた本作。今田と北村の好演もあり、多くの視聴者が楽しめたことは間違いないだろう。

 蛇足ながら筆者は、今から20年ほど前、ご健在だったやなせたかしさんを取材させていただいたことがある。

 その時、特に記憶に残っているのが、話の流れに関係なく、「私は最近、歌手としてデビューもしたんだ」とおっしゃって、突然立ち上がって歌い出したことだ。あの当時で80代前半だったか。『アンパンマン』が認められるまで長い時間のかかったやなせさんが、晩年にはいろんな夢を叶えられたのだなあと、微笑ましく思い出した。

『あんぱん』の最終回も、やなせご夫妻が天国から微笑んで見られるようなエンディングを期待したい。

古沢保。フリーライター、コラムニスト。'71年東京生まれ。『3年B組金八先生卒業アルバム』『オフィシャルガイドブック相棒』『ヤンキー母校に帰るノベライズ』『IQサプリシリーズ』など、テレビ関連書籍を多数手がけ、雑誌などにテレビコラムを執筆。テレビ番組制作にも携わる。好きな番組は地味にヒットする堅実派。街歩き関連の執筆も多く、著書に『風景印ミュージアム』など。歴史散歩の会も主宰している。