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ー 「声の震え」を理由に1度は引退
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ー 橋さんが最期に口ずさんだ歌

 

「ハスの上に座るのよ。その隣はあけておいて」

 こう語るのは、橋幸夫さんの妻・真由美さん。ハスは人間世界から清らかな極楽浄土へ往生する姿の象徴とされ、仏様が座る蓮華座や、極楽浄土に咲く花として伝わっている。真由美さんは天国でも夫のそばにいたいとの思いから安らかに眠る夫にそう声をかけた。

 橋さんは1960年のデビュー曲『潮来笠』が大ヒット。舟木一夫、西郷輝彦とともに「御三家」として青春歌謡を牽引し、『いつでも夢を』『霧氷』で日本レコード大賞を受賞した。真由美さんとの出会いは、2009年に遡る。

「私の父が認知症だったことから、『レビー小体型認知症家族を支える会』の会長をしていたのですが、そのとき認知症の啓発活動の協力を、橋さんに依頼したことがきっかけなんです」

 その後、時は流れて、2018年に結婚した2人。

彼は歌を届けることは天才的。結婚しても彼をリスペクトしているのでついつい“橋幸夫さん”って呼んでしまうんです(笑)

「声の震え」を理由に1度は引退

 2022年になると、橋さんはある病魔に悩まされることに。

軽度のアルツハイマー型認知症と診断されたのです。2023年には、声の衰えを理由に引退を宣言し、同年5月に浅草公会堂でラストコンサートを行いました。でも本当は、まだ歌いたかったんだと思います。だから5月以降は、しばらく芸能界に関して触れないようにしていました

 籍を入れただけで、式を挙げていなかった橋さんと真由美さん。引退コンサートの後、2人のために、橋さんの所属事務所である夢グループの石田重廣社長が、椿山荘で結婚式を取り仕切ってくれたという。

 歌うこととは少し距離を置いていたが、引退コンサートから半年がたったころ、車で熱海から東京へ向かっている最中、真由美さんはふと、橋さんの曲をかけたという。