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ー ツケを払わされる事業者たち

 12月10日、東京都渋谷区議会で可決・成立した「きれいなまち渋谷をみんなでつくる条例」の改正案が、ネット上で大きな波紋を広げている。この条例は、コンビニやテイクアウト店などにゴミ箱の設置を義務付け、怠った事業者には最大5万円、ポイ捨てした通行人には2000円の過料を科すという罰則付きだ。この内容に対してネット上で賛否両論が巻き起こっている。

ツケを払わされる事業者たち

 渋谷区の長谷部健区長は11月26日の本会議で、新型コロナウイルス収束後の来訪者や訪日外国人の増加に伴いポイ捨てが激増したため、抜本的な対策が必要だと成立の背景を説明。区の調査では、ポイ捨てゴミのおよそ75%がコンビニやカフェ由来のテイクアウト容器であるという。

 しかし、この条例が「あまりに理不尽すぎる」と猛反発を買っているのには、30年間にわたる経緯があるというのだ。

「1995年の地下鉄サリン事件以降、テロ対策として街中の公共ゴミ箱は行政の手で次々と撤去されました。その結果、行き場を失ったゴミがコンビニのゴミ箱に集中し、処理費用や管理の手間に耐えかねた事業者がやむなくゴミ箱を撤去してきたのです」(全国紙社会部記者)

 つまり、“行政が公共のゴミ箱をなくしたツケ”を事業者が払ってきたにもかかわらず、今になって行政側が「ゴミ箱がないからポイ捨てが増えた。設置しなければ罰金だ」と義務付けた形だ。ネット上では《民間だけに押しつけるのはどうなのか》《行政の責任転嫁だ》《置いても地獄、置かなくても地獄》という悲痛な声が上がっている。

 社会学者の古市憲寿氏もXで、「だったら渋谷区はまず行政の責任として、街にゴミ箱をもっと設置すべきだよね」「コンビニで買ってないもののゴミも多いはず。その現状を無視して、コンビニだけ罰則を課すって、渋谷区は何を考えているんだろう」と、行政の姿勢に苦言を呈している。

 なぜ、渋谷区は“区がゴミ箱を設置する”という対策を選ばなかったのか。区に聞いてみると以下のような回答だった。

 渋谷区がごみ箱を設置した場合、その費用は区民税を払っている区民が負担することになるとしたうえで、「渋谷区としては、『販売から生じたごみについて、販売した店舗が責任もって処理すべき』と考えており、販売した商品から生じるごみは、店舗等が自ら処理するということを浸透させたいと考えております」とのこと。

 渋谷区民が出したゴミは区が責任をもって収集・処理するが、区外から来た人がコンビニやテイクアウト店で買って出したゴミまで区民の税金で負担するいわれはない、コンビニなどが責任を持つべきだ、というのだ。

 条例は2026年4月に施行され、6月からは過料も科される見込みだが、議論は今後も続きそうだ。