経験を積まないまま即位されることも
初等科から積み重ねられた帝王学・象徴学の研鑽は、陛下がどのように振る舞い、考え、心を定めるかを決めるうえで絶大な影響を及ぼし、陛下の基礎となっていると高森さんは言う。その一方で─、
「秋篠宮家では天皇陛下が施されたものに相当する帝王学・象徴学が自覚的に行われた形跡がないのです。悠仁親王がお生まれになって以降、毎年の記者会見で秋篠宮殿下は“どのような帝王学を授けるのか”という質問を受けておられましたが、殿下が真正面から回答されることはありませんでした。秋篠宮殿下ご自身が“帝王学を学ばせなければ”というご意思をお持ちでないのであれば、外の人間がそれを強要できる性質の事柄でも、ましてや陛下にお願いすべき事柄でもないのです」
幼少期から積み重ねていくべき帝王学・象徴学だが、それが施された気配がないまま大学生となられた悠仁さま。もし天皇になられたら、つまずきが生じかねないと高森さんは警鐘を鳴らす。
「天皇には主に3つの仕事があります。1つは憲法に定められた国事行為で、内閣総理大臣を任命したり、内閣からの書類に目を通し決裁するなどの公務です。ここにはあまり影響が出ないと見ています」
問題は残りの2つ。うち1つが、地方への行幸啓や災害が発生した際の被災地お見舞いなどの「象徴行為」だ。
「国民から尊敬を集め、敬愛が寄せられる天皇がお出ましになれば、人々に励ましや癒しなどを与えることによって、象徴としての役目を果たすことができます。一方、そうでない場合、お出ましの意義は薄れてしまうのです」
黒田清子さんがご結婚前、自らの歩みを振り返られたお言葉に、こうした仕事の難しさが表れていたという。
「黒田清子さんは“皇室のお仕事とは目に見える成果につながりにくく、自分に課するノルマや標準をいくらでも下げてしまえることに怖さを感じる”と述べておられます。それでもなお、ベストを目指し続けることで国民からの敬愛につながり、その内発性を育てるのが帝王学・象徴学です。それが十分になされないまま天皇となった場合、象徴行為に全力で取り組まれる動機づけの面で不安が残ります」
そして最も影響が及ぶのが3つ目の仕事。天皇が国家安寧と国民の幸福を祈る儀式である「宮中祭祀」だそう。
「公的な制度で天皇は古代から現代まで秩序の頂点にいらっしゃいます。しかし、祭祀の場では天皇よりも上の存在にひれ伏さなければなりません。陛下がおごり高ぶったお心をお持ちでないのは、祭祀を繰り返し行い、自分よりも上の存在に誠心誠意お仕えする経験による点も少なくないはずです」
天皇となられてからも謙虚で清らかな心構えでいるうえで、祭祀の経験は帝王学に欠かせない要素だというが……。
「宮中三殿で祭祀を行う際、殿内に入られるのは陛下と皇太子のみ。しかし、今は皇太子が不在なので、殿内に入るのは傍系の皇嗣の秋篠宮殿下で、悠仁親王は入ることができません。秋篠宮殿下は天皇陛下とご年齢が近く、実際に即位されることは考えにくく、その場合、今の皇室典範のルールだと、悠仁さまが殿内での祭祀の経験を積まないまま即位されることになりかねません。祭祀は作法とともに心構えが大切で、親子の継承が原則。傍系の次世代への受け継ぎは難しいのです」
成年皇族としての歩みを着実に進まれる悠仁さま。その一方で“帝王学不在”の現状が影を落としている─。
高森明勅 國學院大學講師。神道学や日本古代史を専攻し、『天皇「生前退位」の真実』『「女性天皇」の成立』(共に幻冬舎新書)など著書多数











