三宅健くんだけには負けたくなかった

 狂気的なキャラクターを演じたにもかかわらず、その後、伊東さんはNHK朝の連続テレビ小説『おしん』(1983年)では主人公の父親役に抜擢され、俳優としての活躍の場を広げていく。

「きっと会議では、『おしんの父親にベンジャミンはないだろ』という意見があったと思います。それでも押し通してくれる人がいるんですね。応援してくれる人が、今いるならその関係を大切にしてほしいですね。そういう人たちに支えられて、私は今までやってこれました」

 取材中、伊東さんは“今”という言葉を、何度も繰り返す。88歳になっても、『伊東四朗 吉田照美 親父・熱愛』を楽しめるのも、今を知れるからだと語る。

私みたいな年寄りになると、今の世の中を知ることが難しい。ですから、とにかく聞こうという姿勢が大切なんですね。知りもしないで、『違和感がある』なんて言ったら、途端に年寄りになっちゃいますから。なるべく今の時代の中へ入り込んでいこうという気持ちを持つようにしています

『伊東家の食卓』に出演していたときも、それを第一に考えていたという。

「人の話、特に若い人の話を聞くと、『これが今なんだな』ってわかりますよね。ですから、『伊東家の食卓』のときは、特に三宅健くんと話をしていました。当時、彼は10代後半。たくさん触発されました。

 番組の中でゲームをするときも、絶対に三宅くんだけには負けるまい……といったって、負けるんですけど、そういう気持ちでやると、お客さんは楽しんでくれるんじゃないかなと思っていました。『年寄りでも結構やるじゃん』。そういうところが、番組の中に出たらいいなと思ってやっていましたね

『伊東四朗吉田照美親父・熱愛』(文化放送)/毎週土曜午後3時〜5時
『伊東四朗吉田照美親父・熱愛』(文化放送)/毎週土曜午後3時〜5時
【写真】88歳とは思えない若さ!ラジオ番組でトーク中の伊東四朗さん

 どんなステージにいようが、今を見つめること。伊東さんは、今の自分を楽しむからこそ、時に老いを自虐のネタにする。今の自分を知っているからこそ、無理をせず頑張りすぎない。今を大切にする─。それが伊東さんが現役でい続けられる秘訣なのかもしれない。

「90歳の目標などはあるのですか」という質問を用意していたが、聞くのをやめることにした。今を生きている伊東さんに、そんな先のことを聞くのは、1年後の天気を予想するくらい「わからない」のだから。

取材・文/我妻弘崇 撮影/山田智絵

いとう・しろう 1937年、東京都生まれ。'63年、三波伸介さん、戸塚睦夫さんと「てんぷくトリオ」を結成。'65年、バラエティー番組『九ちゃん!』(日本テレビ系)のレギュラーに抜擢され、お茶の間の人気者に。'76年に始まった『みごろ!たべごろ!笑いごろ!!』(現・テレビ朝日系)での親子コントや『電線音頭』でのベンジャミン伊東は一世を風靡し、以後は役者としても欠かせない存在となる。舞台、テレビ、ラジオ、映画など多方面で活躍する。