実際の団地はユートピア?

 でも、本当に団地はユートピアなのだろうか?

 現実の多くの団地では、住民の高齢化が進み、団地内の商店はどんどん閉店し、暮らしにくくなっている。

 そして出ていった子供たちとは疎遠になり、独居老人が増加した末の孤独死。団地で取りざたされるニュースは決して明るくない。

 我が家の近所にも、昭和40年代に建造した、都内でも有数の巨大団地がある。端から端まで700mほどあり、両端の棟の1階に商店街があって、かつては繁盛していたようだ。だが現在は、西端は団地の外にもスーパーマーケットなどがあって恵まれているが、東端はほぼシャッターが閉まっている。土地に高低差があることもあり、東端の高齢者は同じ団地内で日々の買い物をするのにさえ、バスに乗らねばならないだろう。

 それと、スーパー前の広場にいつも団地の高齢者たちが男女混じってたむろしているのだが、恥も外聞もなくなってしまったのか、お世辞にもきれいとは言えない言葉で、下品なジョークを大声で言い合ったりしている。その姿は加賀まりこや由紀さおりとは大違いなのだ。すすけた団地と一緒に心もすさんでいるようで、ああはなりたくないなという…、もちろんこれは人間性や地域性の問題なのだけど、悪い見本を知っているだけに、手放しで幻想は抱けないのだ。

 そして何より最大の問題は、取り壊しの可能性も視野に入っていること。多くの団地が築50年を数え、耐震性を考えても建て替えは避けて通れない問題だ。住民は無条件で新たな建物に入れると思いがちだが、『しあわせは』でも、建て替え後に入居するとしたら住人は新たに2千万円ほどが必要だと話していた。

 そうなると、桜井や小泉&小林もきっと、今の団地を出て、どこか別の住居を探さなければならなくなるだろう。今だけかもしれないという刹那性は物語としては魅力の一つではあるのだが、住民にとってはドラマチックなどとはいっていられない大問題だろう。

  団地に幻想を抱きすぎるのは禁物だ。

 でももちろん、そんなことは制作サイドも多くの視聴者もわかっているだろう。

 人間関係が希薄な現代社会では、隣近所の付き合いが見直されてきている。だけど現代では、昔のように立ち入り過ぎた関係は求められていない。ポイントはそれぞれが自立していることで、付かず離れず、困った時には力を貸し合えるような、ほど良い距離感。それを体現しているのが登場人物たちだ。

 そんな人間関係が築けるような気がするから、団地を舞台にしたドラマが作られ、視聴者は引き付けられるのだろう。

『しあわせは』のさらなる続編も期待してしまうが、その時は建て替え問題を乗り越える主人公たちの姿も見てみたい。

古沢保。フリーライター、コラムニスト。'71年東京生まれ。「3年B組金八先生卒業アルバム」「オフィシャルガイドブック相棒」「ヤンキー母校に帰るノベライズ」「IQサプリシリーズ」など、テレビ関連書籍を多数手がけ、雑誌などにテレビコラムを執筆。テレビ番組制作にも携わる。好きな番組は地味にヒットする堅実派。街歩き関連の執筆も多く、著書に「風景印ミュージアム」など。歴史散歩の会も主宰している。