ホルモン療法は、がん細胞の成長を促す女性ホルモンを抑える治療だ。そのため、矢方さんは、25歳という若さで「更年期症状」に悩まされることになった。

「イライラや不安感が強くなったり、ホットフラッシュが現れたりしました。特に困ったのは、頭皮の汗が止まらなくなったこと。『髪の毛を洗ったの?』というくらい、滝のような汗が止まらなくて」

以前よりも視野を広げて考えられるように

 乳がん治療は、乳房だけでなく、月経など女性にとって大切な機能にも影響を及ぼす場合がある。そうしたことはあまり知られていないからこそ、「私の経験を通じて、少しでも知ってもらえたらうれしい」と矢方さんは話す。

 現在も、乳がんの治療中である矢方さんだが、今年8月、子宮の内膜組織が卵巣に入り込む「卵巣子宮内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)」の手術を受けたことを発表した。

「名古屋で舞台の稽古をしていたとき、右下腹部に激痛が走って……。その日の稽古はなんとか終えましたが、帰りに痛みで歩けなくなり、タクシーで帰宅。激痛こそ治まったものの、鈍い痛みがその後数週間続いたんです」

 最初は便秘か盲腸を疑って近くの内科に行ったが、婦人科の受診をすすめられたという。婦人科での検査の結果、卵巣に約10cmの腫瘍があることがわかり、その大きさから、手術で切除することになった。

 手術までの間に、舞台稽古と公演をやり遂げ、公演が終わった翌日に入院。無事に腫瘍を切除できた。

「幸いなことに腫瘍は悪性ではなく、腸への癒着もありませんでした。術前の激しい痛みは、腫瘍が大きく、ほかの臓器を圧迫し、卵管がねじれたことによって生じていたので、今はもう痛みもありません。再発を防ぐ薬を服用しながら、元気に過ごしています」

 あと1年半のホルモン治療を残す矢方さん。罹患後はウィッグの髪、片方の胸がないこと……自分が周囲からどう見られているのかとても気になったときもあった。

「そうした時間を経て感じたのは、『大変なのは私だけではない』ということ。明るく笑顔で接してくださる方も、もしかしたら、つらいことを乗り越えながら生きているのかもしれない……。次第に、そう考えられるようになったんです。

 病気をしてから、さりげなく手助けをしてくださったり、見守ってくださったりする方が、たくさんいることにも気づきました。以前よりも、視野を広げて考えられるようになったと感じます」

 そして、病気のために思うように仕事ができない時期があったからこそ、表現することが大好きなのだと、改めて気づくことができたと語る。

「これからも、声やお芝居での表現とともに、私の使命として病気の経験も伝え続けていけたらと思っています。同じ病気で気持ちが沈んでいる方に、私の声やお芝居を通じて、『矢方さんみたいな生き方もあるんだ』『この人の吹っ切れ方、いいな』と思っていただけたらうれしいです」

矢方美紀著『きっと大丈夫。~私の乳がんダイアリー~』(双葉社)
【写真】病気とまっすぐに向き合い…矢方さんの回想録

取材・文/満留礼子(羊カンパニー)

やかた・みき 声優、タレント。accordo所属。1992年生まれ、大分県出身。アイドルグループSKE48のメンバーとして7年半活動し、チームSのリーダーを務めた後、2017年に卒業。現在は、声優としてナレーションやアニメ作品に出演するほか、舞台やラジオ、自身の経験を伝える講演などで幅広く活躍。著書『きっと大丈夫。~私の乳がんダイアリー』(双葉社)。出演などの情報はこちら https://accordo-cast.com/talent/m-yakata/