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ー 症状がないからこそ、検査が不可欠
ピロリ菌感染などによる慢性的な炎症が続くことで、胃の粘膜が腸の細胞のような状態に変化する腸上皮化生

 食欲の秋、ついつい食べすぎて胃の調子が悪い……といったことはないだろうか? 11月は、世界各国で啓発活動が行われる「胃がん啓発月間」。

 胃がんはかつて、日本人のがんによる死亡数の第1位だったが、最近は診断方法と治療方法が向上し、男性では第3位、女性では第5位に。とはいえ、男女合計の部位別罹患数では第3位とまだまだ多い。

症状がないからこそ、検査が不可欠

 がん予防のために知っておきたいのが、胃がん発生に深く関わっている天敵の存在。それが、一度は聞いたことがあるかもしれない「ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)」だ。

「ピロリ菌は、人間の胃の粘膜にすみつく珍しい細菌です。ピロリ菌に感染していても大部分の人は症状がありません。ただ日本人17万人以上の解析では、1970年生まれで約35%、1960年生まれで約49%と、上の世代ほど高い感染率が示されています」

 そう話すのは、一之江駅前ひまわり医院 院長・伊藤大介先生だ。

「胃の中は食べ物を消化する強い酸性に保たれており、通常の細菌はすみつくことができません。しかしピロリ菌は、胃の中にある尿素を取り込み、ウレアーゼという酵素の力でアルカリ性のアンモニアをつくり出します。自分の周囲の酸を中和するという特殊な能力で、胃の中にぬくぬくとすみついてしまうのです」(伊藤先生、以下同)

 では、ピロリ菌はどこからやってくるのだろうか。

「多くは幼少期に家族内で感染すると考えられています。経路は解明しきれていませんが、口から口、便から口、嘔吐物を介した感染などが推測され、昔は汚染水が関与した可能性も指摘されています。一度感染すると、ピロリ菌は胃の粘膜に慢性的な炎症を引き起こし続けます。

 最初は慢性的な胃炎や、粘膜がやせて薄くなる『萎縮性胃炎』となり、長引くと胃の粘膜が腸の粘膜のように変性する『腸上皮化生』の状態に。腸上皮化生そのものは、がんではありませんが、胃がんになりやすい状態であることがわかっています」

 長年の慢性的な炎症は、胃が傷つき続けている状態。炎症の程度は人によって違うが、ダメージが蓄積していけば、やがて胃がんへと進む可能性もある。

 感染者は未感染者に比べて胃がんの発症リスクが圧倒的に高く、特に非噴門部(胃の入り口以外)での発症は約6倍というデータもある。

「『胃もたれも、胃痛もないから大丈夫』という過信はいちばん危険。『ちょっと胃が重いけれど、年齢のせいかな?』と見過ごしているうちに、胃の中では着々と炎症が進んでいるケースが少なくありません。症状がないからこそ、検査が不可欠なのです」

 ピロリ菌の有無は、どうやって調べるのだろうか。

「医療保険適用内で検査するなら、事前に内視鏡検査(胃カメラ)で胃炎などの病変を確認していることが条件となります。その後、息を吐いて調べる呼気検査や、便・血液・尿検査で陽性かどうかを調べることに。また、内視鏡で一部胃の粘膜を採取して調べる方法もあります」

 もしピロリ菌に感染していることがわかっても、過度に恐れる必要はないという。

「治療法はシンプルで、胃酸を抑える薬と抗生剤を1週間飲み続けるだけ。1回目の治療で約87.6%の人が除菌に成功し、不成功でも薬を替えて二次除菌を行えます。途中で薬をやめると菌が耐性を持ってしまうため、きっちり飲み切ることが重要です」

 抗生剤の副作用で軟便になってしまう人も。そんなときは、ヨーグルトなどに含まれるプロバイオティクス(善玉菌)を一緒にとると、予防効果が期待できるそう。

「副作用がひどい場合は医師に相談し、薬を替えてもらいましょう。なお、プロバイオティクスにはピロリ菌を減少させる働きがあり、6人に1人の割合で除菌できたというデータもあります。確実な効果は期待できませんが、腸活として積極的に摂取する価値はあると思います」

 感染期間が長いほど胃がんリスクが上がるため、早めに除菌しておくと安心だ。

「最近の調査結果でも、除菌をすると胃がんリスクが約36%減少することがわかっています。まずは菌の有無を確認して除菌すること。ただ、感染していた場合は今までのダメージがゼロになるわけではないので、除菌後も定期的な検診を受けましょう。自治体の補助などを利用すれば、費用を抑えて受診できる場合もあります。50代以降は2年に1回を目安に内視鏡検査を受け、自分の胃の状態を確認してほしいですね」

取材・文/荒木睦美