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 岡崎京子の大規模展『戦場のガールズ・ライフ』が開かれていた東京・世田谷文学館。3月29日の夕方に突如発表され、開催されたという小沢健二のシークレットライブ。当日は日曜日ということもあり、会場はにぎわっていた。

「ライブを見に来た客は300人くらいいたかと思います。10代の女の子や子ども連れの30~40代のお母さん、50代ぐらいの女性もいて年代は幅広かったです。男性客も多かったですね。立ち見がたくさん出ました」(女性客)

 当日の夕方、館内のアナウンスで“18時15分より、小沢健二さんの演奏会を開催します”と発表されたが、ライブは予定から15分遅れた午後6時30分に始まったという。

「オザケンは白いシャツに紺のパンツ姿でメガネをかけ、アコースティックギターを持ってステージに現れました。1曲目は『天気読み』。この曲には《新しいフレーズが君に届いたらいい》という歌詞があるんですが、岡崎さんへの気持ちを表しているなと思って、ジーンときましたよ」(前出・女性客)

 演奏スタイルはシンプルそのもの。自分でiPhoneを操作してリズムトラックを鳴らし、ギター1本で歌った。『天使たちのシーン』を披露したあと、親をテーマにした詩を朗読した。

「“親というものは選べないし、飽きたからといって代えることもできない。消費される時代だからこそ、親というものの存在をもっとよく見てみよう”という内容でした。そのあとに“岡崎さんには素敵な家族がいます。岡崎さんの家族は彼女をそっと見守っている”と静かに話しました」(前出・女性客)

 このライブに、小沢は岡崎の家族を招待していた。彼女の苦闘を支える家族に、感謝の念を伝えたかったのだろう。

 『それはちょっと』『春にして君を想う』『神秘的』の演奏後、もうひとつ詩を朗読している。それは友情についてだった。

「友情とは、はかり知れない魔法の力を持っている。それについて調べようとすると、ちゃんと説明されているものが見つからない。遠く離れた友達もかけがえのない存在という、そんな内容の詩でした」(前出・女性客)

 『強い気持ち・強い愛』の演奏後、登場したのはその“友達”だった。東京スカパラダイスオーケストラのキーボート担当・沖祐市をステージに上げて『流星ビバップ』、サックス担当のGAMOと『ドアをノックするのは誰だ?』で共演した。

 前日に小沢はスカパラの25周年ライブに参加して詩を朗読しており、同じ時代を生きた仲間の声を岡崎に届けたかったのだ。この日共演はしなかったが、ほかにも岡崎にエールを送る著名人が会場に来ていた。

「同じ渋谷系で人気のあった『オリジナル・ラブ』の田島貴男さん、’94 年に『今夜はブギーバッグ』でコラボしたスチャダラパーのメンバー、いとうせいこうさんなどもいました」(前出・女性客)

 同時代に小沢健二と岡崎の作品を見てきたという男性は、ライブを見て以前とは違う方向性を感じたという。

「家族や友情といった、かけがえのないものを強く意識していましたね。それを大事にしようという、オザケンと岡崎先生の“新たな道しるべ”だと思いました」

 小沢は’09 年にアメリカ人の写真家と結婚し、’13 年には1児の父となっている。東京近郊に住むドイツ文学者の父・俊夫さんを訪ねると、「孫には1回だけ会いました。そりゃかわいいですよ」とうれしそうに話してくれた。

 俊夫さんが編集長を務める雑誌で小沢が連載している小説『うさぎ』には、戦争や原発などをテーマにした回も。父になった彼の心情の変化が伝わってくる。

 最後に『戦場のボーイズ・ライフ』、『東京の街が奏でる』を演奏し、約70分にわたるライブは終了した。

「“岡崎京子─!”とオザケンが絶叫して終わりました。泣いている人もいて、拍手が鳴りやみませんでした」(前出・女性客)

 岡崎自身も展覧会には訪れている。休館日に2度来館し、車イスで会場を回ったそうだ。彼女は現在も、懸命にリハビリを行っている。

 会場の最後には、視線追跡で文字を入力する装置を使って本人が打ち込んだメッセージがあった。

《みんな、ありがとう》