EXILEのステージとはまた違う魅力を追求した今回のツアー。パフォーマーの姿がないかわりに、自分の名前でツアーを回れるほどの実力者が多数参加する40名からなるビッグバンドが、音の持つ力と迫力を、これ以上ないほどに感じさせてくれる。

「曲と曲の合間の間奏で、サックスのソロが入ったりするんです。決して派手な動きではないけれど、聴いていて気持ちがいい。そういうものを目指しました」

 '06年に声帯にできたポリープの摘出手術をして以来、徹底して体調管理をしてきた。だからこそ、すべての力を音楽に注いだ今回のステージでの不調は、苦しいものだったのだろう。

 確かに、いつもの優しく、美しく、力強い声とは少し違っていたが、彼がメロディーに乗せて届けてくれた言葉は、いつものようにスーッと心に沁み込んでいった。だからこそ、多くの人が握りしめたタオルで涙をぬぐい、鼻をすすっていた。

「ありがたいですね。ヘタでもいいから、メッセージを届けたいと思っていたので。僕自身も歌いながら涙ぐんでいることが、結構あります。京セラの2日目のアンコールでは、感情のダムが崩壊して、歌えなくなったところがありました。あのときは、“声が出ないぶん、サポートするよ”って、音楽を通して会話ができている感じがして」

 そんな、思いがけない感動を経験することができた今回のツアー。さらに、スタートさせてから、気づいたことがあったという。

「初日が始まるまで、僕らが音楽をお届けするというところまでしか考えがなかったんです。でも、実際に幕が上がってみたら、こちらが届ける以上のこと、会場のみなさんと僕とバンドでセッションができた。“繋がる”ことができたんです」

 こんな体験をしたからか、“もしかしたら、なにかが邪魔して、もう声を戻してもらえないんじゃないかと思ったりもします(笑)”と、冗談を交えながら、こう続けた。

「勝手に、自分はもっとうまく歌わなくちゃいけない歌手だと思っていました。でも今回で、生きざまと言ったらカッコよく聞こえますが、そういうものを共有してきたアーティストであり、グループなんだと教えてもらえた。

 キレイに上手に、いい歌を届けるに越したことはない。けれど、ライブの評価は自分の出来がどうだったかだけではなく、例えば思うように歌えないけれどステージに立ったというような、いろいろなことから判断されるんだと改めて感じさせてもらいました」

 今年に入り、ドームツアーだけでなく新プロジェクト『EXILE ATSUSHI LIVE & TALK SHOW “LIVING ROOM”』もスタートさせている。第1弾となった沖縄・石垣市民会館では、約1000人と触れ合ったライブ&トークショーを成功させるなど、活発なソロ活動が続く。だからこそ、噂されるEXILEからの勇退。

「そう思う方がいらっしゃるんですね……。ソロ活動をするたびに、毎回、この話が出てくる。それだけ興味を持っていただけていると考えるようにします。EXILEを離れることは、ないですよ」