“隠蔽”を減らす遺族の相談窓口

 制度ができる以前から医療訴訟に取り組んできた『医療問題弁護団』の木下正一郎弁護士はこう話す。

「報告ケースが予期せぬ死亡、死産に限定され、広く医療事故をとらえて原因究明、再発防止に役立てるうえでは十分とは言えない。制度が成熟してない段階であり、やり方を見極めていく必要がある」

 木下弁護士のもとには医療事故の疑いのある相談が日々寄せられる。たとえスムーズに院内調査が実施されても、その内容が十分であるとは限らないという。

「ある女性が医療事故で亡くなり、病院で調査がされ、報告書が作られました。ただ、病院側に都合のいい経過しか書かれておらず、遺族が納得しなかった。病院側が再調査の依頼に応じないため、現在、センターに再調査を求めているところです」

 医療事故が起きて患者が死亡すると、病院と遺族が対立しやすい。しかし、この制度は個人の責任追及ではなく、医学的な真相を究明し、再発を防止するために作られた。遺族側ができることはどうしても限られてしまう。

治療中でも日ごろから疑問に思ったことがあれば、医師に聞くこと。遠慮せず、こちらの要望もきちんと伝えたほうがいいです」(前出・木下弁護士)

 病院側が報告判断や院内調査をする過程では、地域の医師会や大学病院などの支援団体にサポートをしてもらえる。

 支援団体のうちのひとつ『日本医師会』は「病院側と患者・家族との信頼関係を構築するツール」と制度をとらえる見方を示しており、木下弁護士も「関係者の信頼構築が不可欠」と同意する。

 そのためには、まずは病院側が、曖昧な説明や、隠蔽を匂わすような報告をしないことが求められる。

 前出の宮脇さんは、制度の今後のあり方に、こう期待を込める。

「改正によって、センターが遺族の話を聞くことになったのは第一歩です。今後、センターから病院に調査勧告を出したり、指導ができるような権限が生まれれば、遺族の声が生きる」

 現在、病院によって解釈が分かれる“予期せぬ死”の基準を標準化するように検討されている。医療の安全を提供できるかは、今後の取り組み次第だ。

<プロフィール>
取材・文/渋井哲也 ジャーナリスト。長野日報の記者を経てフリーに。若者の生きづらさ、自殺、依存症、ネットコミュニケーション、東日本大震災などを取材。近著に『絆って言うな!』(皓星社)