39歳で作家デビュー後、日本官能文庫大賞新人賞や団鬼六賞大賞などを次々と受賞。今年3月には原作『姉の愉悦』が初めて映画化された『溺愛』が封切られる、女性官能小説家のうかみ綾乃。男性だけでなく、女性からも絶大な人気を誇る作家として話題になっている。

「映画タイトルは『溺愛』ですが、原作と同じく姉と弟の話になっています。近親相姦ではないですが、弟を独占しようとしてとんでもないことをするんです。社会的にも人間的にも許されないようなことなんですが、彼女は自分の欲望に突き動かされているだけなんです。自分が持って生まれてしまった欲望に翻弄される女性なんですね」

 シンガー・ソングライターとして活躍していた彼女が、官能小説家デビューしたのは39歳のとき。本を書かないかという誘いがあったという。

「音楽をやっていたときも、女性の性というものを意識して歌っていました。それを官能小説にして、女性の怒りや性に対しての屈託とか屈折など“女性の闇”を書きたいと。なので、読者も半数は女性なんです。男性は私の作品は怖いとおっしゃる。そして、よく“これは実体験ですか?”と聞かれるんですが、実体験だけを書いていたら人生が破綻しちゃいますよ(笑)。でも、実体験はにじむものだと思いますし、実感は常にこもっていますね」

「近所のおじさん」のいやらしい目つきが性への目覚めに

 そんな彼女が官能小説家になったのには、幼少期のトラウマがあるという。

「ときどき3歳児なのに妙に色気のある子どもっているじゃないですか。私がそのタイプだったんです。なので、ふだんは優しい近所のおじさんなどが、私に対しては欲望の目を向けたり、抱っこするときにいやらしい手つきをしたりする。男性に対するいやらしさと恐怖を小さいころから感じて生きてきましたね

 また、彼女が育った家庭環境も、エロスへの妄想をかき立てることになる。

「うちは、親が性的なものや暴力的なものを過剰なまでにカットして私を育てたんです。絡みのあるドラマはビデオに録画してキス以上のものはカットして編集し、それを見せるんです。そこで、私は妄想力を鍛えられたのかもしれません。この間に何があったんだろう。どんなことをしているんだろうって(笑)

3月4、5日に渋谷ユーロライブで上映される『溺愛』。4日はうかみの舞台挨拶もある

 実生活では性的なものからいっさい排除されたが、小説だけは別だった。そして、中学2年生のころ、官能小説と出会うことになる。

「小説はチェックされなかったし、何も言われませんでした。初めて読んだのは川上宗薫の作品でした。セックス描写に20ページもかけていて、中身が衝撃的だった。読んでいて体温が上がりましたね」

 これからも、彼女は愚かで一生懸命、生きている女を書き続けたいと話す。

「欲望を持って生まれ、埋めなくてはいけないものを持って生まれてしまった女性を書きたい。それは性器を超えて内臓の絡み合いまでいく女性の絡み合いを書きたいと思っています。だから、男に都合のいい女は書いてないんですよ。でも、女性の読者に、“こんな女いる”って共感してもらえると思うんです」

<profile>
うかみあやの ’72年生まれ、奈良県在住。’11年『指づかい』で作家デビューし同年、『窓ごしの欲情』で日本官能文庫大賞新人賞を受賞。’12年に『蝮の舌』で第2回団鬼六賞大賞を受賞。生田流筝曲師匠でもある