誰にも負けない「東京の喜劇」を作りたい

 家族への感謝とともに、入院中に考えたのは、これから残された未来についてだった。「入院したときに俺はなんで生かされてるんだって考えた。そのとき『東京の喜劇』をやらなきゃいけないなって思った。改めて頑張ったらすぐに『熱海五郎一座』の新橋演舞場での公演が決まった」

 行き着いたのは自分が本当にやりたいこと「東京の喜劇」。

「それまでは、いろんなことで負けないぞという生き方だった。劇団の演出も、役者としても、ドラマも、テレビの司会も、映画も。“全部一番になってやる、やらなきゃいけない”と思ってた」

 しかし考え方が変わった。

「やっぱり『東京喜劇』というか、喜劇は日本で誰にも負けない作り手になろうと。ほんとのプロにならなければいけないなと。そういう考え方になったのが、いちばん大きかったんじゃないですかね」

 それからは、テレビの司会も日本の素晴らしさを再発見したり、健康にまつわる番組と、やりたいことを選ぶようになった。具体的には仕事量を減らして、喜劇を作る時間を多くしたという。

「そしたら本当にいいものができるんですよ。やっぱり考えて作ったギャグが、お客さんにドーッと受けることの繰り返しですから。考えて作らないとダメ。忙しい間は、役者にまかせて作ってきたんですよ。それだと、やっぱり僕がやりたい喜劇にはならない。作る時間を多く取ってもらうようにした」

 10年前からは、学生時代からの夢だったビッグバンドも結成している。小曽根真、カルロス菅野、寺井尚子など一流ミュージシャンをゲストに迎えて、ブルーノートTOKYOなどで演奏活動を続けている。

「ジャズをあまり知らない人も、楽しめるようなエンターテイメント的要素のビッグバンドライブをやりたかったんです。そんな考えに賛同してくれた最高のプロのミュージシャンが集まってくれましたから、本当にたくさんの方に聴いてほしい。

 僕以外はみなさんプロですから、練習は苦しいんだけど、それだけだったらやめてます。楽しさがなきゃ。あとはお客さんが喜んでくれるから」

 38年目を迎えるSETについても、14年目の『熱海五郎一座』についても、いま、改めて考えていることがある。

「笑いの舞台は、お客さんが笑うか笑わないかで結果が出てしまう。だからいつもお客さんが声を出して笑うことを考えているんです。それを40年近くずーっとやってるわけですよ。結果を出さないと、次がないわけですからね。今年の『熱海五郎一座』も、去年好評だったから、今年はそれ以上のものを作るってことですね。それはお客さんが、声を出して笑うっていうことでしょうね」

 その「笑い」のアイデアはいつも頭の中で考えられ、磨かれていく。

「面白い設定を考えて、台詞を作って、それを表現できる役者さんにやってもらう。プラスそこに笑いのセンスがある人たちの芝居がのっかると、さらに笑う人数が多くなるってことですよね。だからうちの芝居には、個性的なだけでなく演技のできる女優さんが出てくれるんだと思います。

 それと、去年よりも今年、今年よりも来年、再来年っていうことに、疲れないようにしたいとは思います(笑)。その気持ちがあるうちはダイジョーブだと思うんです。だってもう、ワクワクしますからね。来年はどうしようかなって。それがあるから続けられるわけで、それは失いたくないなと思いますね」

 希代の喜劇人、三宅裕司はそう言って静かに席を立つとリハーサルへと向かった。

取材・文/高山まゆみ

<公演情報>
『熱海五郎一座 新橋演舞場シリーズ第四弾 消えた目撃者と悩ましい遺産』2017年6月2日~27日 出演:三宅裕司、渡辺正行、ラサール石井、小倉久寛、春風亭昇太、東貴博、深沢邦之/藤原紀香
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