日中戦争前夜と同じ軍靴の響き

 荻野教授は、共謀罪には、第一次安倍内閣から練られた計画性を感じるという。

「第一次安倍内閣は、まず教育基本法を改正しました。そこから始まっています」

 教育基本法は、日本国憲法を国民に根づかせるための重要な法律。しかし、それを愛国心や郷土愛を養うように改正したのだ。

「これは異分子をあぶり出して排除していくためのものと言えます。巧妙にメディアを操作し、また保守勢力をけしかけて、自分たちにとって不純なもの、健全でないものをつぶしていく。『美しい国』とは、見たくないものは消していく、という意味にも聞こえます

 最近の流れは日中戦争に突入する時期と似ていると、荻野教授は危惧する。

「1937年、日中戦争前夜、軍機保護法という軍事機密を保護する明治時代の法律が復活、対象範囲が拡大され、刑罰が強化されました。これは流言飛語(デマ)を流したり、軍機を話したりすると検挙される法律です。そして治安維持法の2度目の“改正”、続いて国防保安法が公布・施行され、政治的な機密が保護された。全国一斉に防諜週間が始まり、“国民防諜”が叫ばれました。日本が本格的に戦争に突入しようとする時代に、戦争を遂行するのに障害となる報道や思想の持ち主の口を封じたのです。これらの法律は、戦後GHQの人権指令によって、廃止されました。

 しかし、なんだか私にはあの時代の軍靴が再び聞こえるような気がするんです。特定秘密保護法は、かつての軍機保護法と国防保安法を合体させたような法律といっても過言ではない」

治安維持法と「共謀罪」の比較

 まきさんも、2006年の第一次安倍内閣発足時、その「第一声」に違和感を覚えたひとりだ。当時のメールマガジンに、次のように書き記している。

《美しい国日本をつくっていくために全身全霊で打ち込んでまいりたい……。そのために、教育基本法も「改正」し、入管法も「改正」、共謀罪もないといけない、何より「憲法改正が必要だ」と言っているように聞こえてきます。共謀罪があるような国が、はたして『美しい国』なんでしょうか?

 まきさんは今、あらためて問いかける。

「犯罪を計画しただけで逮捕されるような共謀罪が成立したら、どんな恐ろしいことが起こるのか? 言論や思想の弾圧が始まるのです。横浜事件は大昔に起こった過去の事件ではなく、今日的な“生きている事件”。若い人たちにも、それを理解してほしいのです」

<取材・文/小泉カツミ>
ノンフィクションライター。医療、芸能など幅広い分野を手がけ、著名人へのインタビューも多数。著書に『産めない母と産みの母~代理母出産という選択』(竹内書店新社)ほか