「保育園を増やして」母親たちの声が共謀罪となる社会に

「戦前に、日本がどうして戦争へ行ったかというと、おそらくいまと同じだろうと思うんです。関東大震災があって未曽有の不景気になった。生活は苦しくなり、失業者はあふれ、労働組合運動をはじめさまざまな権利運動が活発になる。それを国は抑えにかかり、刑罰を強化して戦争へ向かっていくという構造です」

 そう話すのは九州大学の内田博文名誉教授だ。「戦争ができる国」へ続く流れは、首相の悲願である憲法改正をゴールに見据えながら、着実にステップアップしているという。

「第2次安倍政権になってから2013年に特定秘密保護法が制定され、2015年に安保関連法も作られた。安保法は海外で暮らす日本人の保護を名目にしていましたが、これも戦前と同じ。資源獲得と邦人保護のためと称して、海外に軍隊を派遣していった経緯があります」

治安維持法ができる前、女性たちの運動も活発だった。写真は内田教授の著書。表紙は1925年の女性文士らによるデモ

 そんな中で戦争反対の声をあげるのは、母親を中心とした女性たち。

「これを押さえつけるための法律が治安維持法、そして今回の共謀罪です。戦前に、まず国は女性をターゲットにして戦争反対の声を押さえつけた。子どもを兵隊に送って戦死させることがお母さんたちの仕事だよという形で徹底的に管理し、家族すべてを戦争に協力させるために、家長に対し強大な権限を与えて統制させました。家族の誰かが捕まった場合は連帯責任。そうして夫婦や親子の関係は、国のための夫婦、国のための親子という関係に切り替わっていったのです」(内田名誉教授)

 共謀罪が作られようとしているいま、その片鱗がすでに垣間見えるという。

「例えば、自民党の憲法改正草案。国が福祉を担うのではなく、家族が助け合って自分たちのことをやるように自助・共助を強調しています。いまの憲法が重視するような個人を大事にする家族制度ではなく、戦前の家制度的な家族観です」

 かつては“妻や嫁の仕事”とされてきた介護や子育て。そんなのおかしい、老人ホームも保育園も増やすように変えてほしいと主張すれば、「場合によっては共謀罪の対象になりかねない」と内田名誉教授。

「組織的威力業務妨害罪の共謀罪になってしまいます。おそらくそうした形で、共謀罪も女性や家族をターゲットにしてくるでしょう」