酒場の魅力を語る、吉田類
酒場の魅力を語る、吉田類
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 すごくおいしいマグロを仕入れるっていうので有名な店で、その日のうちに店主と友達になってね。彼とは、登山仲間でもあるんだけど。そこで会った人たちと自然に飲み歩きをするようになったんです。

 “酒場”は、自分にとって、すごく面白い世界だった。例えば、それまで、モツも食べたことがなかったわけですよ。これが……と、思って食べてみたらおいしいんです。いまは、とくにシロ(豚の大腸)なんて、大好きですもん。食べものだけでなく、酒場そのものも魅力的でしたね。人間って、こんなにいろいろなタイプがいるんだと知れるわけです」

映画にも出てくる土佐の幼少期の体験

 酒場との出会いが、のちに“酒場放浪記”となっていった。この放浪記からイメージを膨らませて製作され、3軒の居酒屋で繰り広げられる人間物語を覗くことのできる映画のストーリーテラーであり、ひとつの物語では、主役である巨額詐欺事件の犯人として追われる投資会社の社長・森本を吉田が演じている。

「僕はね、作り込むなんてできないタイプ。監督は、それでよしとしてくれて“そのまま、ふつうに動いてください”って言われたので、ふつうにやりました(笑)」

 気負いがなかったように答える吉田に、今作のためにダイエットをしたと聞いたことを伝えると、

「失敗したの(笑)。思ったほど、減量できなかったんです。やりたかったですよ。だって、逃亡者の役ですから。それなのに、毎晩、おいしい酒と肴を食べていたら無理ですよね(笑)」

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 公開を待ちわびるファンのために、思った役作りができなかったという。

 追い詰められた社長・森本が、故郷の土佐の酒を口にしながら、幼いころを思い出す場面が映画の中に出てくる。

 両手ですくった水をそのまま飲み干せるほどの清流で遊び、友と一緒に登った山の頂から遠くに光り輝く海を見つける。それは、まさに吉田が幼少期に体験したことだったそう。

「再婚して、山むこうの村に越していった従弟を驚かせようと思って山に登ったわけです。そうしたら、ずーっと先に光るものがあって“あれ、なんや?”と言ったら、土佐湾だった。初めて見た海でした。そこから、憧れをもって西洋の話をいっぱい聞くようになるんです」

 そのころ、吉田の人生に大きな影響を与えた、もうひとつの経験をしている。