管理職夫は、“怖がり”で自信喪失状態にある

 一方で、「家庭内管理職夫」たちは、なぜ妻をイラつかせるような行動をしてしまうのか……。「彼らも悪気があってやっているわけではない」と石原先生は言います。

現在、退職を迎えた世代の男性社会というのは、勝ち負けの世界です。ゼロか百かというところで勝負し、勝ち上がってきた人が管理職になっていきました。社内での信用を得て自分の居場所を作り、着々とそれを広げてこれまで歩んできたわけです。いわば、会社での肩書こそが自らの価値、自らの居場所を証明する大切な要素のひとつでした。

 しかし退職してそれがなくなると、男性は無意識に自分に価値がなくなったように感じてしまいます。いわば自信喪失状態ですね。それを払拭するために、妻を支配しようと高圧的に出たり、今までの地位をなんとか家庭内に持ち込んで家族を部下に置き換え、自分を維持しようとしたりするわけです。“これまで家族のために仕事を頑張ってきたんだから、妻には尽くされて当然”というような考え方も、本質的には自分を認めてほしいという思いからきています」

 そんな「自信喪失」の心理に加え、もうひとつ家庭内管理職夫の行動を決定づけている心理があるそう。

彼らの心理としてもっとも特徴的なのは、“恐れ”です。家庭という自らが知らないフィールドへと入り、家のどこに何が置いてあるかさえわからない手探り状態に置かれたとき、夫たちは本能的に身を守ろうとします。自分で動いて失敗し、妻に醜態をさらすのが怖い。それを隠そうとする結果、妻に対し強く出たり、逆につきまとったりするような行動をとるのです。また、外の世界に対しても恐れを抱き、自分の知らないものには近づきたくありません。だからますます、家にこもるようになります」

 妻との関係を勝ち負けでとらえてしまい、負けることに恐れを抱いている……。元管理職のプライドから、妻がいなければ何もできないという現実もうまく受け入れられない……。夫側の気持ちもなかなか複雑なようです。

(左上から時計回り)●ガミガミタイプ 支配的な暴君タイプの厄介者。命令や威嚇を繰り返す。感情的になりやすく、言うこともやることも大げさで、妻を何とか支配しようとする。●ネチネチタイプ 執着心が強く、ネガティブな感情をためやすい。言葉よりも、態度や表情で相手にわかってくれるように要求する。妻に依存的にしがみつくタイプ。●冷血漢タイプ 家庭内のことに関心を示さず、気持ちが通じ合わない。妻の心の痛みがわからない。やることが事務的、機械的。非常に細かい性格で、小さなことにこだわる。●無責任タイプ 何かにつけて「妻のせい」にする。批判、批難、批評が得意。相手の一言一句にこだわり、「ああ言えばこう言う」で返してくる。頭はいいが家庭生活への対処能力は低い。
(左上から時計回り)●ガミガミタイプ 支配的な暴君タイプの厄介者。命令や威嚇を繰り返す。感情的になりやすく、言うこともやることも大げさで、妻を何とか支配しようとする。●ネチネチタイプ 執着心が強く、ネガティブな感情をためやすい。言葉よりも、態度や表情で相手にわかってくれるように要求する。妻に依存的にしがみつくタイプ。●冷血漢タイプ 家庭内のことに関心を示さず、気持ちが通じ合わない。妻の心の痛みがわからない。やることが事務的、機械的。非常に細かい性格で、小さなことにこだわる。●無責任タイプ 何かにつけて「妻のせい」にする。批判、批難、批評が得意。相手の一言一句にこだわり、「ああ言えばこう言う」で返してくる。頭はいいが家庭生活への対処能力は低い。
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相手を打ち負かしても夫婦関係は悪化するばかり

 日本には昔ながらの美徳として「夫唱婦随」という考え方があります。「夫の言うことに黙って従うことが、家庭円満の秘訣と思っている人は意外に多くいる」と石原先生。しかし、その価値観こそがストレスの原因になっている可能性も……。

「今、家庭内管理職夫に悩まされている世代ではまだまだこうした価値観が根強いですが、そうした人ほど心にダメージが蓄積されやすいといえます。また、夫を立てようとする意識から、知らないうちに夫との間で主従関係ができてしまうのも、妻がストレスを抱える大きな要因のひとつになっていると思います」

 夫婦関係が徹底的にこじれてしまい、石原先生のもとへ相談に訪れる人には、ひとつの特徴があるとのこと。夫婦のコミュニケーションが“戦い”になってしまっている場合が多いそうです。

互いに不信感を抱くような関係になると、どうにかして相手より優位に立ちたい、相手を打ち負かしたいという気持ちから、日常のコミュニケーションもまた戦いになります。そんな関係になったときに、人が無意識に用いるのが、相手にストレスを与える“三種の技法”です。

『でも』とすぐに相手の言うことを覆す。『そうだね』という同意の言葉を決して使わない。『悪かった』と謝ることをしない。コミュニケーションにおいて常にこれらをやり続けると、相手には多大なストレスがかかります。逆に考えると、互いにこうした言動をとることが多いほど、夫婦関係は悪化しているといえます」

理想の夫婦のあり方は家庭によって違うもの

 かいがいしく家族のために働き、毎日食事の支度をし、洗濯や掃除をして家をきれいに保ち、子育てを一手に引き受け、夜は夫と同じ布団で眠る。こういったような日本古来の「理想の妻」であることをいまだに求めてくる夫や姑もいるでしょう。

 そしてまた、夫との関係においても、いつも夫婦円満で、社会的に見た「理想の夫婦」であらねばならないと思い込んでいる妻もまだまだいるもよう。

 一方で、理想を目指してもうまくいかないことから、夫婦なんてこんなもの、自分の人生はこんなもの、とあきらめてしまう人も多くいて、それらすべてがストレスの原因になっていると石原先生は分析します。

理想にとらわれすぎると、結局は我慢やあきらめを強いられることになります。そして、それらは必ずストレスのもとになります。そもそも、理想の夫婦、理想の妻などというものは“思い込み”にすぎません。なぜなら、夫婦の数だけ関係性があり、お互いが心地よいやり方は違うはずだからです。

 特に現代社会では、“夫婦はこうあるべき”といった旧態依然とした結婚観などとっくに崩壊しています。仕事の都合で別居しながら結婚生活を維持したり、結婚後も実家の世話になったりといった夫婦もたくさんいるわけです。社会的な価値観や、他人がどう思うかではなく、まずは自分にとって、夫とのよりよい関係とは何なのか。それを考えることが、家庭内管理職夫と一緒に過ごしていくための最初のステップとなります」

自分の気持ちを認めたうえで自立した関係を築くべき

 理想の夫婦、理想の妻という幻に翻弄されないためには、まず自分の正直な気持ちを認めることが大切だそう。

家庭内管理職夫に対してストレスを抱えている自分がいることを、まず認めましょう。そのうえで、関係を改善していくことは十分にできます。ポイントとなるのは、互いに自立することです」

※関係改善のための具体的な方法は、本日20時に公開する「対策編」でご紹介します。

<教えてくれたひと>
石原加受子先生◎心理カウンセラー。心理相談研究所オールイズワン代表。自分を愛し、解放し、もっと楽に生きることを目指す自分中心心理学を提唱。著書に『「最近、心が休まらない」と思ったとき読む本』(KADOKAWA)など。