職場で人格攻撃され、無力感を感じる日々

 翔太と出会った時、美央は菓子メーカーの広報から、広告業界という異業種に転職したばかりでどん底にいた。右も左も分からない業界。美央は、平日は12時間、土日も休みなく馬車馬のように働いた。

俗に言う、ブラック企業。しかも上司からはパワハラされ放題。能動的な人を求めていると言っているくせに、自分で企画書を出すと結局ははねられるんです。『鈴木さんの企画は、品がないんだよね』『鈴木さんは、頭使わなくてもよかったのに』とか、さんざん人格攻撃されて、毎日の無力感が半端なかったですね。もうどうしたらいいのか分からなくて。翔太君はそんな最悪な状況のあたしの支えになってくれたんです。そこからかな、徐々に惹かれていったのは」

 異業種からの転職組の美央は、パワハラ上司のいじめの格好のターゲットにされ、来る日も来る日も社員の笑いものにされた。

 救いの手を差し伸べてくれる存在は翔太だけだった。業界の大先輩である翔太は、美央に上司との付き合い方や、仕事の円滑な進め方などを的確にアドバイスした。

 翔太との初デートの思い出は、ディズニー映画『アナと雪の女王』。LINEで『アナ雪』のスタンプを送ったら、あれよあれよという間に映画を見に行くことになり、平日の昼間に新宿のバルト9で待ち合わせした。

 既婚者の翔太とは、平日の昼間にしか会えないことを美央は知っている。しかし、「社畜体質」で土日も仕事に明け暮れる美央にとって、翔太に会うことができればいつでも良かった。

「あれ、美央ちゃん、こんなに可愛かったっけ? 可愛すぎて、誰か分からなかったよ」

 人ごみの中で美央を見つけた翔太は、再会するなり、そう言って美央をときめかせた。

一度セックスすると、どんどん気分が盛り下がっていく

 思えば、美央はずっと夢見がちな少女だった。昔から白馬の王子様に憧れてきた。小学校時代から少女マンガを読み漁り、理想の彼氏の集大成ともいえる男たちを思い描いてきた。高校に入って、なんとなく付き合った彼氏と初めてセックスをするが、現実のセックスは、美央が想像していたものとは程遠かった。感想は、「こんなものなのか」。

 これまで自分が抱いてきたマンガの中の理想の男と、なんだかぎこちなくて笑ってしまうような現実のセックス。それはあまりにも違う世界でどうしてもその二つを結びつけることができない。それは今もそう。セックス自体好きではないし、彼氏がいてもセックス以前の関係性のほうが楽しい、というのが美央の持論だ。

「一度セックスすると、どんどん気分が盛り下がっていくんですよ。私って“少女マンガ脳”なんだと思います。きっと少女マンガの世界を実現してくれる人が理想なんですよね。翔太君は、奥さんがいるから、会いたくてもいつでも会えるわけじゃない。それが、あたしにとっても逆に妄想を掻き立てられて、いいんだと思う

 美央は今の自分の置かれている状況を、そう冷静に分析してみせた。

「プラトニックな不倫」――美央はインタビューの間、しきりにその言葉を口にした。しかし、その純粋な思いは、やがて2人をさらに深い世界へと誘うことになるのだった。

(後編に続く)

*後編は6月25日22時に公開します。

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<著者プロフィール>
菅野久美子(かんの・くみこ)
1982年、宮崎県生まれ。ノンフィクション・ライター。
最新刊は、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)。著書に『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)などがある。孤独死や特殊清掃の生々しい現場にスポットを当てた、『中年の孤独死が止まらない!』などの記事を『週刊SPA!』『週刊実話ザ・タブー』等、多数の媒体で執筆中。