動物と触れ合うことは子どもの情操を養う意味で重要だが、その機会が今後、減ってしまう可能性があると新宅先生は懸念する。

「近年、指導教員不足などの理由により、小学校で飼育するウサギやニワトリなどが全国的に全廃の方向に向かっています。そうした流れの中で、本物の動物に触れる機会がない子どもたちにとって、今後、動物園は貴重な生き物教育の場になっていく可能性が高い。理科でも道徳でもなく『動物』という新しい科目を検討する動きもあります」

 そうした需要がありながらも、すべての動物園が潤沢な資金をもつわけではない。人気動物がいるかどうか、アクセスのよしあしなどの理由で運営格差が広がり、閉園に追い込まれる小さな園も増えている。一方でさまざまな工夫や方針、見せ方の違いを打ち出し、魅力的な動物園に生まれ変わっているところもある。今、日本の動物園は“転換期”に立っているといえる。

 初めて動物に触れたときの気持ちを覚えているだろうか? その感動を子どもや孫に伝えたいという思いは、多くの日本人の心に今なおあるはず。

 もちろん、大人だけで動物園に行ったとしても、小さな動物の赤ちゃんが成長して子どもを産み、老いていく様子を継続して観察する楽しみがある。命の営みの尊さに気づかせてくれるのも動物園だ。祖父母から孫までが同じ場所で動物を見たという、同じ思い出を共有できる場でもある。

 人気動物や珍しい動物を追いかけて出かけるのももちろん楽しいが、まずは地元のローカル感あふれる動物園から見直してみよう。仕草や親しみを感じる動物を見つけたりして、愛着が湧くかもしれない。

「話題の動物園に1度行ってそれっきり」というのではもったいない。動物園は通うほどに魅力を感じるものなのだから。この夏は、自分だけの“通いたくなる動物園”を探してみよう!

<教えてくれたひと>
新宅広二先生◎生態科学研究機構理事長。専門は動物行動学と教育工学で、大学院修了後、上野動物園勤務。フィールドワーク、狩猟、教育、監修など、幅広く活躍。著書に『すごい動物学』など。