・鯨ゆかりの自治体に状況を聞いてみた

 地域の伝統として鯨文化を今に伝える自治体は数多くある。やはり、給食に鯨肉が登場している?

 まずは、古式捕鯨発祥の地・熊野地方が有名な和歌山県に尋ねてみた。

本県では昔から鯨肉を食する文化がありますし、鯨肉はタンパク質や鉄分が豊富な栄養価の高い食材。平成28年度は、30あるうち22の市町で鯨の献立の給食を実施しました。1校あたり年間1〜5回程度で、メニューは主に竜田揚げです」

 栄養面ばかりでなく、教育的要素も大きい。

「伝統食材である鯨肉を給食で提供することで、子どもたちが県の伝統的な捕鯨文化への理解を深め、後世に継承し、郷土愛や食に対する感謝の心を育めると考えています」(和歌山県教育庁学校教育局健康体育課)

 続いては釧路市。国が行う調査捕鯨は釧路沖でも実施されていることから、今も鯨にゆかりがある。

年2回ほどの実施で献立としては竜田揚げです。給食で子どもたちに食べてもらうことで、鯨肉を食べるという文化自体をなくさないようにしています。

 もし今後、商業捕鯨が再開され、自由に鯨肉が買えるようになったときに、食べ方や料理の仕方がわからないということがないようにしたいと考えています」(釧路市水産港湾空港部水産課)

 かつて捕鯨基地のあった下関市は、市の動物も鯨。今年3月には、南極海での調査を終えた捕鯨船が下関港に帰港するなど、歴史的な捕鯨文化を持つ。

 市に、給食の状況について尋ねると、

「平成28年度は年12回、月1回の割合で実施しました。12回のうち半分は全市一斉で、残りの6回は各地域ごとの実施になります。鯨給食は’87年ごろに1度中止になったんですが、’98年から再開し、今に至っています。1番人気のメニューは竜田揚げです。鯨カレー、鯨の炊き込みごはんなども提供しています。

 給食は学校保健給食課の管轄で、本来は水産課が関わるところではないんですが、学校給食で鯨肉を食べてもらいたいとの思いから、水産課で鯨肉購入などの支援をしています」(下関市農林水産振興部水産課)

 最後に県民1人あたりの鯨肉消費量が日本一といわれる長崎県。県庁所在地の長崎市では、

年に1~2回の実施で、好評。楽しみにしている児童が多いです。メニューは鯨の竜田揚げを筆頭に、鯨汁、鯨のごまみそがらめ、揚げ鯨のマリネ、鯨の甘辛煮、鯨のオーロラソースがらめ、鯨じゃが、鯨カレーなど。

 高学年の児童は、“鯨はめったに食べられない”と聞くと大事そうに、そしておいしそうに食べています。低学年の児童は、見た目がレバーに似ているので最初は少し警戒しますが、ひと口食べると“おいしい!”と笑顔を見せます」

 長崎と鯨の関係は縄文時代に遡る。

「江戸時代は古式捕鯨の中心地でした。壱岐、対馬、五島、平戸の各地に漁場が点在し、多くの鯨組(捕鯨を行う組織)が操業していました。沿岸住民に多くの雇用を生み出したため、“鯨一頭で七浦が潤う”と言われたほどです」(長崎市水産農林部農林政策課)

 自分の生まれ育った地域の伝統や文化を知る──。

 鯨の給食は、重要な食育も担っているのだ。