例えば、利用者の中には、スタッフと友達のように親しくなってくると、この人なら冗談として受け止めてくれるだろうと「ブス」「デブ」「お前、殺してやろうか」といった言葉を、軽口のつもりで投げかける人がいる。

 また、テレビでラブシーンが流れたときに、これまでの性体験について尋ねたり、女性の裸のポスターを室内に貼って、介護者の反応を見て楽しむといったこともあるという。

 こうした利用者の行動を介護者が不快に思ったり、恐怖を感じたら、これらの行為はセクハラであるし、言葉の暴力になると篠崎氏は指摘する。

 また、自身も看護師で介護や医療の従事者を“暴力(身体的暴力、心理的暴力、セクシャルハラスメントを含む)”から守る運動に尽力する藤田愛氏は、今年『訪問看護師等が利用者・家族から受ける暴力対策検討会』を立ち上げた。

 藤田氏が“暴力”をなくすための活動を始めたのは、自ら所長を務める北須磨訪問看護・リハビリセンターから“暴力”の被害者を出してしまったことがきっかけだったという。その被害とは──。

個人宅、施設の個室という密室で行われた実態

「被害に遭ったのは30代の看護師。脳血管障害の後遺症のある女性の看護のために、ご夫婦ふたり暮らしのお宅に訪問に入ったときのことです。

 ご家族から“今日は寒いからお茶を飲んで温まっていって”と、どうしてもとすすめられたお茶に薬物が混入していました。1度目は見抜けず翌週も訪問。帰社したとき、泥酔状態のような意識障害があったんです」

 なぜこのようなことが起こったのか。実は、夫婦ふたり暮らしだと思っていた患者宅には30代の息子が同居していた。そして、この息子が、違法薬物取締法違反で執行猶予中だったということを事件後、しばらくしてから藤田氏は知らされたという。

 これらのセクハラや暴力は、一部の利用者やその家族が行ったもので、ほとんどの利用者は善良なはずだ。ところが、このごく一部の悪質な利用者のせいで、セクハラや暴力の被害に遭った看護および介護サービス提供者の割合は、私たちの想像をはるかに超え、高いのだ。

「私たちが大学で実施した調査に協力してくださった286名の施設および訪問介護職員のうち、性的嫌がらせの経験ありとする人は約42パーセント、身体的・精神的暴力を受けた経験がありとする割合は約56パーセントにのぼります」(篠崎氏)