また藤田氏は、神戸市看護大学と共同で訪問看護師が利用者・家族から受ける“暴力”の実態も調査している。その結果、対象となった兵庫県内の全訪問看護ステーションに所属する看護師358名のうち約50パーセントが“暴力”を受けた経験を持つという実態を明らかにした。

 驚くべきことに、在宅訪問を行う看護師、在宅・施設の介護職ともに、およそ50パーセントが性的嫌がらせや暴力の被害者であるという事実が浮き彫りになったのだ。

 ここまでで述べてきたようなハラスメントを、他のサービス業の従事者、例えば飲食店の従業員に対して行ったとしたら、すぐさま通報されるなどの大問題に発展するであろう。なぜ、医療や介護の現場では黙認されてしまうのだろうか。これについて、篠崎氏は次のように指摘する。

「医療や介護を受ける利用者は社会的弱者なのだという同情心から、ハラスメントを受けたことの公表により、利用者をさらに弱い立場に追い込むのを危惧する気持ちが先だってしまうのだと考えます」

 サービス提供者には、こうした気持ちが根底にある。一方、受け手である利用者には、’00年からスタートした介護保険制度の施行後、意識変化がみられるようになった。

「利用者は介護利用料の1割を負担することになりました。そのため、利用者に消費者としての意識が芽生え、その権利を主張するようになったのです」(篠崎氏)

 サービスの提供者と利用者の意識にズレが生じるようになった結果「金を払っているんだから言われたとおりにやれ!」と恫喝され、性欲処理のための介助を強要される。ほかにも洗車や来客の応接、庭の草むしりやペットの散歩といった、本来の職務を逸脱した行為を求められる現状へと変化しているという。

 また、藤田氏は、

「看護職は暴力の背景に“私のケアが悪かったから”といった解釈をして、ガマンしてしまうことが多い。そうして、胸の中にしまい込んでしまうため、事業所へ報告として上げにくい状況がある。それだけでなく、たとえ報告を上げたとしても、事業所の管理者から“暴力を受けたのには、あなたにも責任がある”と注意を受けることすらあるのです」

 と述べ、現状では、各事業所における関係者内での話し合いにとどまっているが、それだけでは解決に至るのは難しいと続ける。

「このままでは“暴力”に耐えきれなくなった優秀なスタッフは離職してしまうでしょう。そして、人手不足になれば、訪問サービスを本当に必要としている多くの善良な利用者さんに、看護や介護のサービスを提供できなくなってしまいます。これは、利用者のためにも、サービス提供者のためにもなりません」