ちなみに、普段の森見夫妻の様子は……。

奈良に住んでいるということもあり、非常に牧歌的な夫婦だと思います。一時期は毎日、午後の1時か2時になるとふたりで散歩に出かけてコーヒーを飲むのが日課になっていました。冲方丁(うぶかたとう)さんに“老夫婦みたい”と言われたことがあるくらいです(笑)」

 特別に夫婦円満の秘訣も教えてもらった。

「人様に語れるようなことは何もないのですが……。しいていえば、妻は少し身体が弱いので、心身ともになるべく負担をかけないように配慮するとか、気遣いをすることでしょうか

森見登美彦さん 撮影/佐藤靖彦
森見登美彦さん 撮影/佐藤靖彦
すべての写真を見る

 本書には、森見さんが小説家になるまでの軌跡も記されている。小学校3年生から物語を書きはじめた森見さんは、誕生日やクリスマスにお母様へ作品を贈ることが大切な行事となっていたという。

母に原稿用紙を買ってもらってから、いろいろな物語を書きはじめたんです。誕生日やクリスマスは、自分の中での締め切りのような感覚でした。大学に入学するまで、書いた作品は必ず母に読んでもらっていましたね」

 英文科出身で読書好きのお母様は、森見さんの読書歴にも少なからず影響を与えているのだそうだ。

「高校生のころは、アガサ・クリスティーとかピーター・ラヴゼイとか、母が読んでいた海外ミステリーを借りて読んでいました。スティーブン・キングの『IT』が好きで、読んでいたハードカバーの本を母に貸した記憶があります。僕が小説を書いていることに対して、父は“そんなことばっかりしてたらあかん”というスタンスでしたが、母はややこしいことはなにも言わず、応援してくれているような感じでしたね」

 森見さんは、小説と同様、エッセイも全力投球で書いているという。あらためて、『太陽と乙女』の読みどころを聞いた。

「すごくアホなふわふわしたエッセイからまじめなものまで、いろいろな意味で幅のあるエッセイ集に仕上がりました。ですから、『週刊女性』の読者の方にもなにかしら引っかかる部分があるのではないかと思います。

 デビュー10周年からはだいぶ遅れてはいるのですが、ひとつの区切りとなる1冊でもあるので、僕の小説の読者の方にもそうでない方にも広く読んでいただけたらうれしいです

(取材・文/熊谷あづさ)

■ライターは見た! 著者の素顔
『太陽と乙女』の中には、奈良が登場するエッセイも収録されています。奈良県人の森見さんにおすすめスポットを教えてもらいました。
「奈良の観光というと奈良公園や東大寺あたりに行くのが基本パターンになると思うのですが、時間に余裕があるときには、ぜひ、生駒山と大和文華館にも行ってほしいですね。古代の雰囲気が漂う、奈良の雄大な感じを味わってもらえたらと思います」

■取材後記
 好きなものや自著の解説など多様なエッセイが収められていて、読むほどに森見登美彦さんの存在が身近に感じられました。特に、小説のアイデアが湧いてくるのではという期待からノートやメモ帳を思わず買い込んでしまうという部分には、やせることを期待してエクササイズDVDを購入する自分を重ね合わせ、妙な安心感を覚えました。

<プロフィール>

もりみ・とみひこ◎1979年、奈良県生まれ。京都大学農学部、同大学院修士課程修了。在学中の2003年に『太陽の塔』でデビュー。『夜は短し歩けよ乙女』で第20回山本周五郎賞、『ペンギン・ハイウェイ』で第31回日本SF大賞、『聖なる怠け者の冒険』で第2回京都本大賞受賞、『夜行』で第7回広島本大賞受賞。