演劇部の菅野千那さんから「スタッフが足りない」と声をかけられ、高橋さんは裏方を引き受けた。入部をきっかけに菅野さんや部員、クラスメートらとも仲よくなり、役者にも挑戦すると自信もついた。元の明るさを取り戻し、学校も休まなくなった。

『いつか、その日に』の一場面。中央が高橋さん(西田直人教諭提供)
『いつか、その日に』の一場面。中央が高橋さん(西田直人教諭提供)
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 震災や村と向き合うことになったのは2〜3年生時の公演『─サテライト仮想劇─いつか、その日に』への出演だった。舞台は同校、飯舘村に帰る最後の終業式の前日、教師や生徒たちの心情や葛藤を描いた芝居だ。

 演劇部の生徒で飯舘村出身は高橋さんだけ。 

「みんな飯舘村の場所も知らなかった。部内のミーティングで村や村の人の気持ち、私の震災体験を伝えました。真剣に聞いてくれたのがうれしかったし、劇を通して村のことを発信できたのもよかった」

 芝居は昨年夏、全国大会で優秀賞を受賞。今年2月には東京都内でも上演した。

 今春、同校を卒業した高橋さんは介護士を目指し、郡山市内の専門学校に進学する。

「村の介護施設で働きたい気持ちはありますが、放射能のこともあり、帰らないほうがいいと言われることも……」

 同村は昨年春、避難指示が解除されたが帰村は1割程度。

 直近の目標は免許取得だ。

「春には桜、カタクリ、それに藤。とにかく花がたくさん咲くんです。次は一緒に避難生活を続けているおばあちゃんを連れて私の運転で来ます」

 と、微笑む。春はもうすぐそこだ。