なんか、落ち着ける場所を探して、ずっと旅をしている感じ――。

 洋子は、ぼんやりと空(くう)を見つめながらそう言った。無償の愛で包んでくれる、父親のような相手を探す旅。果たしてそんな相手が見つかるのだろうか。いや見つかってほしい、私は切にそう願う。今も昔も、洋子と不倫相手との関係は、まるで洋子がかつて行っていた抜毛癖(ばつもうへき)のようだと思った。不在の父親を無意識に求めてさまようがゆえに、「不倫」というその場しのぎの関係をつかんでしまうのだ。

「幸せになりたいけど、不幸な関係を呼び寄せちゃう」

「本当はこんな不幸な恋愛じゃなくて、幸せになりたいんです。でも、なんか、不倫のような不幸な関係を呼び寄せちゃうんですよね。私もまっとうな人と付き合いたいと思うんです。でも、愛してくれない人を好きになっちゃう。父親みたいなタイプが好きだから、独身の男とはなんかうまくいかない。

 しかも、自己否定の気(け)が強くて、仕事で追い詰められてると、自分に絶望しちゃうんです。今の相手(陽介)も、仕事がうまくいかなくて、精神的に不安定な時に出会ったんです。“ダメだ”とか、“できてない”とか、とにかく自己否定がひどい。類が友を呼ぶというか、不安定な人を呼び寄せるんですよね。彼は、家庭生活にすごく不満があって、セックスレスも重なって、自己否定のモードにあると思うんです。そう考えると、自分がしっかりしないとなって思うんですけど……」

 洋子は、そんなふうに自己分析してみせた。しかし、洋子にはどうすればいいのかわからない。このままでは、まっとうな婚活からは遠ざかるばかりだ。実は洋子は、これまでに何度も陽介との関係を清算しようとした。

もう、連絡してこないで! 奥さんを大切にしてよ!

 相手は妻帯者――。たまにその現実を直視して、気が変になりそうになる。そして、ヒステリックに陽介を問い詰める。何をどう言ったところで彼は自分のものではない――、寄せては返す波のように、幾度も幾度も狂おしい感情が、洋子の心身を追い詰めるのだ。

 そんな言動の末に一方的に関係を切ると、陽介はパタリと連絡してこなくなる。絶対に向こうから深追いはしてこない。妻とはうまくいっていないとはいえ、離婚する気などさらさらないからだ。不倫する男にありがちな、「来る者は拒まず、去る者は追わず」というスタンスなのだ。

 それが何日も、それこそ何週間も続くと、洋子は寂しさに耐えきれず、自分からLINEでメッセージを送ってしまう。その繰り返しが未だに続き、無限ループから逃れられない。けれども、たとえわずかな時間であっても、落ち着ける場所という夢を見させてくれるなら、藁(わら)にもすがる思いでその関係に依存してしまう。それが不倫という行為の本質なのだ。