父親みたいな存在に頭をなでられたい

 洋子がまだ幼い頃に、両親が離婚。母親は、洋子の兄と妹を含めた3人を引き取って、いわゆる母子家庭というハンディを抱えながら育てた。無職の父親は、家にお金を入れることもなく、たまに気まぐれに訪れるだけだった。家計は火の車で、母親は夜昼を問わず働いて、子供たちを養った。洋子はそんな母親を助けるために、家事を一手に引き受けていた。

 そんな家庭環境による寂しさゆえか、洋子は小学校3年生の時に、自分の髪の毛を1本ずつ抜いていたことがある。髪が徐々に薄くなり、一部がハゲになった洋子に気付いた母親は、慌てて病院に連れて行った。

「あの頃は全く無意識だったと思うんですが、髪を1本ずつ抜いちゃっていましたね。それが、痛いという感覚はないんですよ。今でもストレスを感じると、髪の毛を抜いてる時があるんです。爪を噛むのも好きで、母親にそれを発見されたときに心配されましたね。お父さんが好きというのと、お父さんがいないことによる寂しさを、今の不倫相手にぶつけているんだと思います。子供っぽい男の人を今まで好きになったことがないし、好きになる人はどこか父親的な包容力のある人が多いんです。そうなると、どうしても落ち着いている妻帯者になっちゃう。今の人もそう。セックスなんかよりも、頭をなでられたり、ハグされると落ち着くんです

 洋子の家庭を破滅に追いやったダメな父親だったが、母親や他の兄妹と違って、洋子には父親に対して良い記憶しかない。ダメな父親だったとしても、子どもの頃の思い出もあって、会えるのはたまらなくうれしかったからだ。

 優しくて、包容力のある男――そうなると精神的にも幼い同世代の男ではなく、妻帯者が自然と視界に入ってくる。

 洋子は20代の時も、40代の男と不倫関係になっている。不倫相手は、当時、勤めていた職場の上司。洋子の自宅が職場と近かったこともあり、定時に会社が終わると、6時に不倫相手が家に来て、必ずセックスをして、終電前に帰る。そんな日々が5年続いた。それはまるで、父娘関係の再現のようだった。

あの時は、彼が好きというわけじゃなかった。ただ、寂しかったから。なんだかんだ、5年も一緒に居たんですよ。毎回セックスして彼が帰ると、心の底に空しさだけが残るんです。そんな関係だと、心がどこか満たされないですよね。ただ、人並みに性欲があって、ムラムラ感があった。お互い寂しい者同士だったから、そこで利害が一致していただけという感じです