「休日とか、家に独りきりでいるのが無性に怖いんですよね。それでどうしようもなくなっちゃって、止めたほうがいいと思っていても、不倫相手につい連絡しちゃうんです。寂しさを紛らわす相手としては、たった一瞬つながるだけでも救われるんですよ。“服をたくさん買ったの”とか、そういう他愛もない話を聞いてほしくて。

 この前の日曜日、LINEで私が『今なにしてるの?』とメッセージを送ったら、『動物園に来てるよ』っていう返信が、画像と一緒に送られてきたんです。ゾウが映っていて。あぁ、今ごろ、嫁と娘と3人で、動物園に行って家族サービスしてるんだなとピンときました。でも、その時はムカつくというよりも、いいなーと、思ったんです。羨ましいって。私も幸せになりたいって

 洋子は何度も、「幸せになりたい」と口にした。しかし、それはとても漠然としていて、現実味を帯びていないように感じた。

 陽介は、少女マンガの世界から飛び出してきたかのようなイケメンだが、決して洋子のことを一番に思ってくれているわけではない。陽介は家庭生活に不満があれど、離婚する気がないのを洋子は知っている。

 それでも、自分からこの関係を断ち切れず、不倫ともセフレともつかないような関係がズルズルと続いている。陽介にとっては、この関係は決して悪いものではないだろうが、洋子にとっては、結婚という夢物語が夢物語のまま終わるのを、黙って見過ごすことに他ならない。

 洋子は、とても気さくで、心根の優しい女性だ。それは兄妹の面倒を引き受けていた過去のエピソードからもよくわかる。そんな洋子が、取材を終えた別れ際、少し寂しそうにしていたのがとても印象に残っている。

 彼女が「かけがえのない誰か」に出会い、「落ち着ける場所」を得て、旅がハッピーエンドを迎える日はくるのだろうか。それはきっと、これから訪れる新しい出会いの中にしかない。そして、「救いとしての不倫」から「本物の救い」へと至るには、自分自身を不自由にしているのは、何なのかということに気付くことだと思う。私はそう信じている。


<筆者プロフィール>
菅野久美子(かんの・くみこ)
1982年、宮崎県生まれ。ノンフィクション・ライター。
最新刊は、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)。著書に『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)などがある。孤独死や特殊清掃の生々しい現場にスポットを当てた、『中年の孤独死が止まらない!』などの記事を『週刊SPA!』『週刊実話ザ・タブー』等、多数の媒体で執筆中。