「私も伝えるママになりたい!」

 そして2年前から、防災先進都市を標榜(ひょうぼう)する福岡市で全国に先駆けた新たな取り組みを始めている。かもんさんが中心となって福岡市や市長に提案した「備災のまちづくり@福岡プロジェクト」が採用され、福岡市共催の防災ママカフェを市内全7区で開催、700人のママが参加したのだ。その後、参加ママから「私も伝えるママになりたい」と声が上がり、講師講習プログラムを考案。地域のママや子どもたちに防災教育をする「備災ママスターズ福岡」を発足させた。現在市内の公民館などで、地域の実情に即した、きめ細かいママ向け備災講習や相談会を行っている。

 福岡で中心となる山口紫織さん(31)は、東日本大震災の後の物資支援でも活動をともにした元ギャルママで、5年前から防災ママカフェ福岡を主催してくれている仲間。現在、7人目の子どもを妊娠中で、子どもたちも一緒に参加し、備災ママスターズの活動を続けている。

「かもんさんと会ったとき、私は九州のギャルサーをまとめてた。なんか通じるものがあって、考え方とかすごく合うなと思った。いつも2人で“自分たちができることやろうよ。やらないで後悔したくないよね”って言ってます。

 防災ママカフェって、かもんさんが死んじゃったらできなくなっちゃうから(笑)、私たちが頑張らないと」

「備災ママスターズ福岡」のみなさん(後列右端が山口さん)。9月1日に福岡市舞鶴公園西広場で行われる「防災キャンプ2018」にかもんさんとともに出演 
「備災ママスターズ福岡」のみなさん(後列右端が山口さん)。9月1日に福岡市舞鶴公園西広場で行われる「防災キャンプ2018」にかもんさんとともに出演 
【写真】防災講座の様子、かもんさんの幼少期、結婚式の様子など

 福岡市の高島宗一郎市長も、かもんさんの活動に大きな期待を寄せている。

「かもんさんが伝えてくださる“子どもを抱える方たちのリアルな声”は、実にこまやかで、震災から得た教訓を伝えてくださるのは本当に大切なことだと思います。子どもたちにも、地震は怖いからと隠すのではなく、絵本を読んで地震がどんなものか伝えておくことで、親も子どもも落ち着いて行動できるというお話も貴重なものです。今、災害は“忘れたころにやってくる”ではなく、“忘れる前にやってくる”ほど頻繁に起こっています。弱者を力強く立ち上がらせる力が、かもんさんにはある。福岡市にとどまらず、市民と行政が両輪となって防災減災に取り組む架け橋になっていただくことを期待しています」

 かもんさんは、講演会の最後をこう締めくくった。

「“緊急地震速報は、自分を守る、子どもを守る行動を開始するゴング”。これは夫が私に言った言葉です。これから私が子どものいのちを守り抜くと覚悟を決め、リングに上がる合図なのです」

 防災ママカフェに参加したママたちからはこんな感想が聞こえてきた。

「怖がっているばかりじゃダメ。子どもを守れるのは私。たくさんの気づきをもらった」(30代ママ、子ども3歳)

「備災はママの愛情。家族の笑顔がずっと続いていくように、今できることをします」(20代ママ 子ども0歳)

 いつくるかわからないゴングが鳴り響く日に備え、ママたちは動きはじめている。大阪ではママたちが行政を動かし、自主防災組織を立ち上げた。各地で同様の動きが始まっている。

「知は力です。知ることで未来は変えられる。何も知らずに亡くなったママや子どもたちのためにも、私たちは絶対に同じことを繰り返してはいけない。今目指すのは、『地震の国、日本』で出産するすべてのママの受講。まずは南海トラフ危険地域のママ全員に、私がお金を集めてでも開催したい。これからも全国のママたちと一緒に活動を続けていきたいと思っています」

(取材・文/太田美由紀 撮影/伊藤和幸)