ここで話をまとめると、「恋愛」と「笑い」と「シリアス」のトライアングルのバランスに配慮し、「普通の朝ドラらしさ」を満たした脚本の上で、「安藤サクラ心中」とでも言える、大胆なキャスティング戦略を採用、あの安藤サクラに天真爛漫な「コスプレ」を課したことによって、『まんぷく』のロケットスタートがあったということになる。

安藤サクラが重なる樹木希林

 さて、エンタメ愛好者として注目したいのは、『まんぷく』の今後に加えて、女優・安藤サクラの今後である。

 今回の『まんぷく』での(コスプレの)経験は、彼女にとっての、1つのエポックとなると思う。そして、この経験を栄養として、さらに日本を代表する女優になってほしいと思う。

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 では、安藤サクラが向かっていく先には誰がいるのか。私は1人の巨星を想起する。それは――故・樹木希林だ。

 最近、BS12トゥエルビで、昭和を代表する名作ドラマTBS『時間ですよ』の第2シリーズ(1971~1972年)が再放送されている。そこに脇役として型破りの存在感を示しているのが、悠木千帆(樹木希林の旧名)である。

 驚くべきことに、まだ20代後半の樹木希林は、強烈な疲労感の漂う、くたびれた銭湯の従業員を見事に演じきっている。そこに感じるのは、「昭和の安藤サクラ」としての存在感だ。

 そして樹木希林は、ご存知の通り、疲労感を超えて、日常におけるささいな生活感をまるごと演じきることができる大女優となって、今年を代表する傑作映画『万引き家族』で、安藤サクラと共演する。

 その共演を通じて樹木希林は安藤サクラを、「こういう役者さんがたくさん、これから出てくるといいな」とWebマガジン「FILMAGA」のインタビューでも絶賛している。

 名人は名人を知る。

まんぷく』での経験も栄養としながら、安藤サクラには「平成の樹木希林」、いや「新元号の樹木希林」に、ずんずんと向かってほしいと強く願う。

 願えば願うほど、オープニング最後の大の字のポーズも「『新元号の樹木希林』なんて、私が全身で受け止めるわよ」という宣言のように見えてくる――。


スージー鈴木(すーじー すずき)◎評論家 音楽評論家・野球評論家。歌謡曲からテレビドラマ、映画や野球など数多くのコンテンツをカバーする。著書に『イントロの法則80’s』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト・プレス)、『1979年の歌謡曲』『【F】を3本の弦で弾くギター超カンタン奏法』(ともに彩流社)。連載は『週刊ベースボール』「水道橋博士のメルマ旬報」「Re:minder」、東京スポーツなど。