“レオタードとタイツの日々”を経て

 24歳でアイドルをやめ、本格的にダンサーになると決めた僕は、NYへダンス留学することにしました。一度本場のブレイクダンスに触れておく必要があると思ったんです。

 それともう1つ、大の苦手だったクラシックバレエとジャズダンスのレッスンを受けることも目的でした。このまま好きなダンスだけやっていたら将来食っていけないだろうな、と漠然と思っていたんです。

 好きなジャンルしか知らずにプロになれるほど、世間は甘くない。「これを期に、今まで避けてきたジャンルにも挑戦しておこう。そうしたら“本物”になれるだろう」という自分なりのロジックがあったんです。

 NYには8ヶ月くらい滞在したんですが、昼間のうちは、「ステップス」というクラシックバレエとジャズダンスのスタジオに通いました。バレエの時は、もちろんレオタードとタイツを着て(笑) 。夜はクラブやストリートに出て、本場のブレイクダンサーたちに囲まれて踊る。昼夜を問わずダンス漬けの毎日でした。

SAM=著『年齢に負けない「動ける体」のつくり方』(クロスメディア・パブリッシング)では、さらなる秘話が語り尽くされている。 
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【写真】56歳にしてキレッキレのダンスで観客を虜にするSAMさん

 苦手なジャンルを学ぶのは大変でしたが、ここで得たものは大きかったです。バレエの柔軟でしなやかな動きや、ジャズのその場で振りを考えるアドリブの技術など、どんなダンスを踊るにしても生きてくるんです。振付を考えたり、他人を指導・演出するときの発想の幅も格段に広がりました。いろんなジャンルを理解しているということが、大きな強みになったんです。

 今ではダンス教室の生徒たちにも、必ず全ジャンルの踊りを一通りやってみるように指導しています。特に、総合プロデュースしている専門学校「日本工学院 ダンスパフォーマンス科」では、独自のカリキュラムとして、「ヒップホップ」「ハウス」「ジャズ」「クラシックバレエ」「コンテンポラリー」の5つを必修科目にしています。

 一般のダンススクールでは好きなジャンルだけ学ぶことが多いんですが、ウチは2年間で全てやらなきゃいけない。ストリートダンスが好きな子は、バレエなんてウチでムリやりやらなかったらまず関わることはないと思いますが、「ここでやっておいたらあとで絶対役立つから。知識としても体の動きとしても、絶対活きてくるから」と伝えています。

 この考え方は生徒に支持されているようで、日本工学院は日本のダンス専門学校の中では一番生徒数が多いし、一番生徒がやめないんです。

 やりたくないと思いながらもやってみたことが、あとで大きな財産になる。得意なことを伸ばすのも大切だけど、苦手にチャレンジしてみることも大切なんだと実感しています。


《PROFILE》
SAM ◎ダンスクリエイター、ダンサー。1993年、TRFのメンバーとしてメジャーデビュー。コンサートのステージ構成はもちろん、多数のアーティストの振付、プロデュースを行い、ダンスクリエイターとして活躍中。近年は、多くのダンサーオーディションを手がけ、自ら主宰するダンススタジオ『SOUL AND MOTION』でもレッスンを行う。2016年には一般社団法人『ダレデモダンス』を設立、代表理事に就任。誰もがダンスに親しみやすい環境を創出し、子供から高齢者まで幅広い年代へのダンスの普及と質の高い指導者の育成、ダンサーの活躍の場の拡大を目指す活動を行っている。
『SOUL AND MOTION』HP→http://www.soulandmotion.com
一般社団法人『ダレデモダンス』HP→http://www.daredemodance.or.jp